451話 想念奔流その6

 想念が渦を巻いて聖都イムマリヤに凝集する。その潮流を読んで、残る七柱の天龍たちも聖都めがけて殺到していた。


 彼らがそれまでどこで何をしていたかと言えば、思うまま《人界》を飛び回って好き勝手に都市を襲っていたのだ。その過程で、いったい如何なる原因かトリポイディワ以外にも一柱の天龍が墜とされはしたものの、他の天龍たちは別段気にしていなかった。彼らは仲間ではなく相争う敵であり、早々に脱落するのならば好都合。自分さえよければ他者の不幸不運などは美味い肴としてむしろ欲するところである。


 脱落した天龍についてはさておき、残る七柱。


 彼らは《人界》の滅びと再誕を知る古強者である。大神光臨を伴う《大いなる輪》の流転儀式には相応の時間を要するし、その間は《人界》の中心には最大兵力が揃っているとも知っている。迂闊に飛び込めばトリポイディワのようにあっさりと墜とされると熟知していたから、こうして機が熟すまで適当にしながら時間を潰していたのだ。


 ユヴォーシュとヒウィラの突入が、彼らにとっての合図となった。


 人族や魔族よりも魔術と《信業》に近しい生態の彼らは、より特殊な知覚を持ち合わせていることが多い。想念の波を感知できるのもその一つだ。大まかな流れしか捉えられないそれは個体数の少ない《龍界》では無用の長物、こんな状況の《人界》でもなければ意義のないものだが、そんなものは他にも山ほどある。そもそも彼らが《人界》で操る龍体からして、この日のためだけに設えた最上級の贅沢なのだ。


 《冥窟》は次の《人界》には持ち越せない。それならばここで使い切ってこそ。


 かけた分のコストを取り返さねばならないから、天龍たちも必死なのだ。ここでの稼ぎが今後の《龍界》の趨勢を決する。早々に脱落したトリポイディワともう一柱など、場合によっては天龍の座を維持できない可能性すら浮上しているのだ。ああはなるまいと気が急きそうになるのをどうにか耐えて、ようやっと飛翔した彼らの翼は力強い。


 さあ、さあ、いざ、いざ。


 いざ喰らわん。貪り喰らわん。


 《人界》聖都を平らげん。兵どもを一呑みに呑まん。際限なく欲し、遠慮なく貪り、呵責なく糧にするもの。それこそが龍なれば。


 一切合切悉く、己が肚に収めんと、《人界》は我が餌場に他ならんと、音の壁を容易くブチ破って、天龍たちが挙って飛来する。

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