452話 想念奔流その7
最初に標的となったのは、《爪弾く柳》のスティオローペ。トリポイディワを撃墜せしめた神の鉄槌───その実態は何の工夫もない鉄塊を投射するだけの純粋な物理的破壊力である。
当たって壊せればそれで構わないという、武骨で何の面白みも感じられない無機質な
スティオローペは油断していなかった。山の如き小神が居るとは予想していなくても、小神相当者あるいは魔王相当者たる聖究騎士たちは、天龍たちにとっても警戒すべき大敵だ。《龍界》で本領を発揮できるならまだしも、わざわざ龍体を造って《人界》に潜ってきている彼らは、ひどく弱体化しているのだ。
トリポイディワがあっさりと撃墜されたのもそれが理由で、龍体の脆弱性を衝かれたのが原因だ。本物の天龍であれば翼と四肢と頭部を失っても生存できる。それが《人界》に龍体でやってくれば、《冥窟》の制約をそのまま持ち越さなければならない。───核ひとつ壊されれば、致命傷となる。
そういう意味で、機神ミオトの砲撃は最適解と言えた。超高速で飛来する鉄の巨塊は、龍体の大部分を抉るように粉砕できる。大雑把な破壊力こそ、天龍に対する有効打なのだ。
天龍の飛行速度に倍する勢いで鉄の砲弾が飛ぶ。命中すればそこでスティオローペの貪食は幕引きだ。だがそれは当たればと仮定した場合の話で、所詮ただの鉄塊───桁外れの《信業遣い》たる天龍が、身構えているのならばどうとでも対処できるのだ。
砲撃が命中した───そう思った瞬間、スティオローペの
いくつもの細い帯状に身体を分解したのだ。砲弾はその間をすり抜けていき、遥か彼方に着弾した。当然そんなザマでは天龍にダメージなどあるはずもない。悠々と飛行を続けるスティオローペと、他の天龍たちは、機神ミオトを最大の障害であると断定した。空中から寄ってたかってブレスを吐きかける。黒鉄の巨体を誇る機神ミオトはそうやすやすとやられはしないだろうが、どう見たって多勢に無勢。あれでは勝ち目はないようにしか見えないし、そもそも───
「うおおっ、冗談じゃねえぞ! 戦闘よか避難が優先って場面じゃねえか、こりゃあ!」
やけくそ気味に叫ぶメール=ブラウのすぐ脇に、機神ミオトの支脚の一本が降り注いだ。全体から見ればひょろりと生えているだけに見えるが、それでも成人男性が抱きかかえられないほどの太さがある金属柱のようなものだ。それが彼のさっきまで立っていた民家の屋根に突き立ち、踏みしめれば───家屋など一たまりもない。建物の土台ごと粉砕されるしかない。
聖都を狙う天龍たちと、それを迎え撃つ機神ミオト。どちらも人族からすれば大きすぎて、味方には成り得ない。彼らが激突する余波だけでこの聖都は保たないかもしれない。
ンバスクの指示を受けた神聖騎士たちも相手どっていたメール=ブラウは、いつの間にかンバスクがその場を離れていることに気づいた。契約に身を捧げたあの男は目前の
「舐めやがって、俺は後回しってかよ……!」
メール=ブラウは神聖騎士の一人を振り回して壁に突っ込ませながら、真剣勝負に水を差された怒りに身を震わせた。
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