444話 最終決戦その5

 尋常ならざる《顕雷》を奔らせてユヴォーシュが疾駆する。その出足を狙って神聖騎士たちの《信業》が放たれる。


 一糸乱れぬ連携。聖究騎士ならざる神聖騎士たちの砲火であっても、完璧に合わせれば聖究騎士に届く。それは確かで、そうやって屠ってきた魔王たちもいる。


 叛逆の聖究騎士、《火起葬》のニーオも、その一人だ。


 彼女に対してはあのとき、《人柱臥処》最奥でディレヒトは聖剣を抜いた。理由は二つ。一つには彼女の成さんとしていた小神シナンシス殺しが《人界》と信庁の大敵と判断するに相応しい最悪の蛮行であったこと。


 そしてもう一つは、単純に彼女の《神血励起》たる《火起葬》を阻止する手段が他になかったからだ。


 彼女の《火起葬》は当たるか外れるかしかない。当たれば如何な防御も耐性も貫通し、。当たらなければ死なない。そういう白か黒か、総取りか素寒貧かを神に託すが如き無謀であったが、それゆえにそれが神体に命中すれば小神たちすら殺し得るとディレヒトは踏んでいた。


 だからをぶつける必要があった。当たれば殺すものに当たれば殺すものをぶつける。激突すれば絶対にどちらかが矛盾してしまうコンフリクトを回避するために、だから《火起葬》は絶対に当たらなくなる。


 読みは通り、あのとき、ニーオの神殺しは間一髪で阻止された。返す刀で《輝きの騎士》たちの一斉掃射を受け、致命傷を受けたニーオがどうなったか、詳細までは彼の知るところではない。


 つまり何が言いたいかというと、《輝きの騎士かれら》はまさしく《人界》そのもの、神の律法の守護者であるということであり、


 その砲火を平然と防ぎ切るユヴォーシュの《光背》は、やはりあり得べからざる悪の《業》なのだ。


 この《人界》に耐えきれるものなどいないはずだ。あのヴェネロンの《年輪》すら上回って殲滅してみせた光剣の雨礫、生きているのはおろか原形を保つことさえ困難なはずなのに、


 彼は足を止めすらしない。


 爆炎を突き抜けて肉薄してくるユヴォーシュ。荒ぶる魔剣はもはやどこまでが刃でどこまでが溢れ出た奔流か定かではない。それを受けながら、ならば次の一手を切るしかないかと観念する。


 まず《列聖するもの》そのものが秘中の秘、奥の手もいいところなのだ。更にそこから一歩踏み込んで、だからこれは必殺技と言えよう。


 必ず殺すための技。


 ユヴォーシュの横合いから《輝きの騎士》の一人が狙いを定める。真っすぐ指差して、その人差し指に点った炎、の周囲に巻き起こった炎、それら全てを束ねて火焔の槍と成し───


 が、赤い線を未明の空まで貫いた。


 ───ニーオリジェラ・シト・ウティナが占神シナンシスと契約することによって得た《神血励起》、その名も《火起葬》。


 再現体に過ぎないはずの《輝きの騎士》は、しかしそれすらも行使可能なのだ。


 これならば。


 どうだ。

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