443話 最終決戦その4

 見知った顔がいる。


 《割断》のロジェス。《契約》のンバスク。《火起葬》のニーオに《鎖》のメール=ブラウ。《醒酔》のナヨラもいるし、《年輪》のヴェネロンもいる。


 聖究騎士だけじゃない。《絶滅》のガンゴランゼ、《魔界》騒動で顔を合わせたブリアル、キシ、グオノージェン、エーリジョンにバンドン。他にも見覚えのある顔、顔、顔。


 そしてその奥には見覚えのない騎士たち。既に故人たるニーオやヴェネロンが再現されている以上、当代の神聖騎士に限定されることもないのか。ディレヒトの言葉が真実なら、彼が知ってさえいれば存命かどうかは関係ないらしい。


「本来、《輝きの騎士》たちを呼ぶことはない。この剣は信庁の重み、軽々に使うものではないし、そもその必要がないのだから。だが───」


 ディレヒトが《列聖するもの》を抜く。構えて、


「お前には、振るうと決めた」


「───へッ」


 それだけの価値を、重みを、俺に認めたってことか。


 信庁の総力と等しいか、あるいは上回る全力で余すところなく叩き潰すだけのであると。


 ───彼の前に立つに相応しいと。


「へっへっへ」


 ダメだ、どうにも我慢できない。締まりのない笑いはどうしたって漏れ出てしまうから、いっそ解き放っちまったほうが清々しい。哄笑する俺を冷たく睥睨するディレヒトが、


「終わりを悟って狂したか。ユヴォーシュ」


「馬鹿言うな。俺は嬉しいのさ───こんなにも冥利に尽きることがあるかよ」


 当たり前のものを一々実感なんてできない。昼の星が見えないように、生きている実感を得られるのは生が脅かされている修羅場のさ中でこそ。


 だから今、俺は強く強く、生涯で最も激しい命を感じている。


 脈打つ心臓の音がうるさい。汗が噴き出す。鳥肌も、これ以上はないだろう。


 失った左腕の断面が、ちくりと痛む。


 そういった煩わしいアレコレが、死んでしまえばもう味わえない。そんな勿体ないこと、到底認められるもんかよ!


「俺は今のために生きてきた! ディレヒト、お前もそうだろ! お前だって───」


「……思い上がりだ。私はただ、《人界》と信庁のために───」


「ディレヒトォっ!」


 ついに再び、《人界》が裂けた。


 積乱雲の中に飛び込んだかのような《顕雷》は、本来それ単体ではいかなる作用も及ぼさないはずの認知の歪みだ。世界を変えんとする魂が、最終的に現行の世界では叶わないならばそれを裂いて新しく叶う世界を創り出してしまおうという無理筋───その余波が人間の知覚には放電現象のように映るという錯覚。


 ならばそれは真に界境の断裂クラックだ。


 いま、俺のネガイは世界を引き裂きつつあった。


 いいさ、構いやしねえ。このまま世界ごと引っがしてやるから覚悟しやがれ。


 その澄まし顔も今日限りだ、ディレヒト・グラフベル!

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