442話 最終決戦その3
手すきの右手は何に使うかって? もちろんアイツにブチかましてやるためだよ!
振りかぶり殴り飛ばす。間合いが足らないのは先刻承知、拳に《光背》を乗せるから関係ない。ディレヒトと俺の間で爆発した閃光が、飛び掛かって大上段に斬りかかってきていたディレヒトをそっくりそのまま斜め上方向に弾き飛ばした。
「どうだ! そのまま《人界》の果てまで飛んでっちまえ!」
むろんそんなことになるはずはなく、俺は天井を突き破って消えたっきりのディレヒトを追って跳躍する。
未明の空の下、決して明るいとは言えない早い時間の聖都はしかし、喧騒に満ちている。
俺とディレヒトはその最たる原因だが、それだけじゃない。あちらこちらで派手にドンパチが繰り広げられているし、
ほんの数瞬前まで波乱を巻き起こしていたディレヒトはしかし、今は一服の絵のように屋根の上に佇んでいた。翳る顔でいい味出しやがって、クソ。
「どしたよ、疲れちまったか? 筆頭なんて肩の凝りそうな肩書を背負って鈍っちまったのかよ」
「……迷っていたのさ。どうするか」
彼はそう呟くと、剣を屋根に突き立てる。まるで戦闘の意思を喪失したみたいに見えるが、まさかそんな。
ビリビリと肌に刺さるような気迫が、そんな勘違いを許さない。
「この剣は《列聖するもの》という。銘は刻まれていないが、少なくとも前の劫から伝わる《真なる遺物》であるのは間違いない」
「そうかい」
───輝きが、溢れてくる。
突き立てた剣に翳される手。それに呼応してか聖剣が朝の光を集めるように煌いている。息づいている。生まれ出でようとしている。
《燈火》のような、光たち。
「この剣は君には握れない。神聖騎士として正式に叙任されたもののみ担うことを許されるんだ」
「生憎と握りたいとも思わないな。俺には
担い手すら苛むまさしく魔剣にしても、他の剣を考えることはないくらいには遣い馴染んでいるのも事実なんだ。今更持ち替える気はないし、ディレヒトだって聖剣をまさか託そうとも思っていないだろう。だからこれはそういう話じゃない。
「私が言いたいのはね、ユヴォーシュ。この剣こそが信庁の権威の象徴なんだよ」
その言葉と共に、剣に纏わりついていた光たちが整然と並び立った。
見える範囲の屋根という屋根に等間隔に、光の柱が突き立つ。それらは───いいや、訂正しよう、彼らは───ゆっくりと本来の姿を取り戻していく。輪郭が定まり、光が収束し、そこに顕れたのは。
「───これは」
「私の知る神聖騎士三百四十三名───それを再現した《輝きの騎士》」
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