440話 最終決戦その1
「……やれやれ、とんだ当て馬だ。これではどう呼ぼうと馬鹿を見るだけじゃないか」
ディレヒトがボヤく。これだけのものを見せられておいて、俺たちを引き剥がすような命令を出せば信庁の威光もクソもないだろう。どのみち乱暴な野盗みたいになる状況に、心中さぞや苦々しいと思われる。
ディレヒトは結局諦めたのか、
「……ナヨラ、君は女をやれ。男は私がやる」
「……りょ~かい」
返事を聞くより先にディレヒトが戦端を切った。
今まで相対した誰よりも速く、鋭い初撃。俺のアルルイヤとディレヒトの白の聖剣が真っ向から激突した余波が大聖堂の端から端まで一瞬で駆け抜け、ステンドグラスが砕け散る。
「行け、ヒウィラ! 《輪》を頼む!」
「任せて下さい!」
未だかつて、これほど素直ないい返事を返してきたことがあっただろうかと思いたくなるヒウィラの声に、逆に俺は少し不安になって苦笑してしまう。それ以上のリアクションはできない。
ディレヒトの剣は凄まじい。意識を他所に割けるような相手ではない、専念してようやくなんとかなる鍛え上げられた剣技!
それこそ、アルルイヤに持ち替える前───まだ並みの聖究騎士だったロジェスに折られた、あの愛用のロングソードでは一太刀目すら受け切れなかったろう。剣ごと俺の胴体が真っ二つになっていたはずだ。握っているのが《真なる遺物》、それも土と金属に親しむ《地妖》の鍛冶が鍛造した魔剣だからこそ俺はまだ生きている。
これが《人界》至高、神聖騎士筆頭───《燈火》のディレヒトか!
受け太刀の勢いを殺せず大聖堂の端まで吹き飛ばされる。足元、踏みしめたタイルが砕けていく。何とか耐えられた───そうまで考えたところで、そうじゃないだろうと頬を引っ叩きたくなる。
俺はここに何をしにきた。ディレヒトの強さに感動しにきたわけじゃないだろう。
俺はここに───勝ちに来たんだ!
「お───おおおおおッ!」
吼えて、猛って、魔剣に俺の魂を喰らわせる。憎悪のアルルイヤは《信業》とそれを齎す魂を呪い、その身を膨れ上がらせる。間合いが狂った魔剣が、黒い大蛇のようにのたうち回ると、大聖堂は瞬時に半壊した。
ディレヒトは俺の奇策にもあっさりと対応してくる。のたうつ黒は魔剣から迸ったものではあっても魔剣そのものではない。ならばどうとでもなるとばかりに、彼はそれを躱し、時には受け、時には易々と両断する。
いつぞや、俺が戦った大魔王マイゼスもこんな気分だったのかもしれないとふと思う。《澱の天道》の奔流とアルルイヤの伸びた刀身は酷似している。あのときの俺はきっとマイゼスにとってこんな風に映ったのか。
───なんて鮮やかな身のこなし。あれなら、追い詰められるのも納得だ。
距離を詰めたディレヒトの白刃と、余技にかまけている暇のなくなった俺の黒刃が、再び激しく火花を散らす。
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