437話 信心問答その7

 俺と、ヒウィラ。


 ディレヒトと、もう一人、女性の神聖騎士。


 神聖騎士筆頭が赴いてきたのは驚くべきことだが、意外ではなかった。目的はおそらく足止め、《大いなる輪》を廻す儀式そのものは彼らの立ちはだかるその先で今も着々と進んでいるのだろう。止めに行かせてくれるとは思えない。


 突破する算段を立てていると、女性の神聖騎士が声をかけてきた。


「ねえ~、きみさあ。聞けば《真なる異端》らしいじゃん。すごいね~、ホントに存在するとは思わなかったよ」


「………………」


 どう返せばいいんだコレ?


 返答に困る気の抜けた言葉に、いまいち戦意を感じられず距離感を掴みあぐねる。俺の感情をよそに、彼女は至ってマイペースだ。


「きみさあ、……何て言うんだっけ?」


「ユヴォーシュだよ」


 答えてから、ほんの一瞬前にディレヒトに名前を呼ばれているじゃないかと思い出す。注意力散漫なのか、それとも……。見れば彼女、こうして話している間もあっちへフラフラこっちへフラフラと、立っているのすら覚束ない有様だ。酔っているようにすら見えるが、まさかこの事態で飲酒している神聖騎士もいるまい。


 質問しておいて彼女は聞いているんだかいないんだか。


「きみさあ、なんで来たの?」


 それもさっきディレヒトが聞いたばっかりだろうがよ。


 流石に相手していられず黙殺すると、彼女はやれやれと首を振ったらしい(正直、首が据わっていない子供みたいに見えた)。次いで大きくため息を一つしてみせると、


「勝てる訳ない。どうやってここまで来れたかは知らないけど、わたしとディレヒトくんがいる。死にたいならどっか他所でやってよ、騒々しくてたまらないよ」


 ボけてんのかと思っていたら喧嘩を売られた。まあどうせ買うんだが、というかむしろ俺たちが売り込みに来たくらいなのだが、言われっぱなしも癪なので売り言葉に買い言葉。


「負けると思って来るわけないだろ。俺は勝つぜ、あんたも、ディレヒトにも、なんなら全員まとめてだって構いやしねぇ。何が来ようと───」


「《人界》すべてが敵に回っても?」


「ああ」


「そっか。きみ、馬鹿なんだね。勝てばどうにかなると思ってる。言っておくけれど、きみが逆らうのはホントに《人界》そのものだ。あらゆる教えがきみを指弾するだろう。きみこそ大悪人、きみこそ背教者、神の敵にして我らの存在意義を否定するもの、って。それでも構わないと、これから先、誰からも見捨てられて見放されてもいいと、そう言うことだよ、きみの言い分は」



 今更そんな覚悟を問われてももう周回遅れで遅いんだ。俺はとっくの昔から、神に逆らってでも自由に生きてやるって決めているし、実際に俺の産みのおやに逆らいもした。そりゃあ苦しいさ、けれど、それでも、


「それでも生きる方を選ぶよ、俺は。生きてりゃあるいは、いつか神の御許とやらから離れる日が来るかもしれない。俺が間違ってるかどうかなんてその時になってみないと分からない。死んだらそれもなく終わっちまう。だから俺は自由に生きて、生きて、生かしてやる」


 ───あんたのことも、生かしてやる。そう宣言したので、ようやく彼女は俺を敵だと認識したらしい。歯軋りと睨む視線が心地いいじゃないか、なあ?

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