431話 末世未明その3

 さて、どう出る。


 ンバスクはいい。どうせ俺を殺す気に満ち満ちていて、説得も何も受け付けないだろうことは明白だ。それよりも争点はもう一人、《鎖》のメール=ブラウ。


 丸一日まえ、俺はアレヤ部隊長の家を訪ねて彼と接触を持った。あるいは彼ならば俺たちのやろうとしていることに興味を示すんじゃないかって、《人界》を終わらせることに難色を示すんじゃないかって、そう考えたんだ。


 現役の聖究騎士に信庁を転覆させる誘いをかけるなんてとヒウィラが難色を示し、カストラスは哄笑するだけしてあとは興味を示さなかった。それでも、俺は諦めきれなかった。俺の目が狂っていて、メール=ブラウがその場で俺を縛り上げるならそれも良し、職務に忠実にディレヒトに報告するならそれも良し。それら最悪のパターンでも、やることは変わらないしどうにかしてやるという確信いじがあった。


 だからあの誘いは、誰が上とかどちらが下かとか関係ない。


 対等に、手を取り合えるかもしれないと思った相手に声をかけに行ったまで。


「───


 あんまりにもあんまりな誤魔化しじゃないか、メール=ブラウよう。


 吹き出しそうになってどうにか自制する。そんなわけないだろう、お前は昨夜の俺の話にあんなに食いついてくれていたじゃないか。信庁の目的、《人界》の構造、終わる劫と来たる劫とかそういうアレコレ。言っちゃ悪いがお前は真面目な騎士にはこれっぽっちも見えなくて、ひたすら自分のやりたいようにやるやつだろう? それが勝手に幕引きだって言われて我慢できるとは思えないし、どうせディレヒトにも吠え面かかせたいって思ってるに決まってら。


 俺がそうだから。


 あとは彼にとって、俺とディレヒトどっちがよりムカつくか。そこに俺は賭ける。


 ……俺の横で、ヒウィラが呆れた気配を漂わせたのは黙殺することとした。


ユヴォーシュこいつは殺せって話だったか、ンバスク?」


「ええ。生け捕りの必要はない、ここで殺せ。そう命じられている」


「そうかよ」


 姿が消えたかと思えば《光背》に衝撃が走る。肘の一撃の鋭さは尋常じゃない。直撃すれば内臓がはじけ飛んで口から溢れ出るだろうよ。随分と容赦がないなメール=ブラウ、


 ───なんてな。


 別にそれでも構わないし、そもそも最初から敵対関係。こうあることの方が自然で、声をかけたからってこちら側に来る方がおかしいんだ。そうだろ。


 俺の腕に鎖が絡みつく。ぐんと引っ張られるのに姿勢を崩されないよう踏ん張ると、どういうわけかメール=ブラウの方ががくんとつんのめった。


 俺は鎖を振り子代わりに力任せ、大きく弧を描いて───そのままさっきから隙を伺っているンバスクに叩きつけてやる!


「お───おおおおおらァ!」


「な、に───!?」


 ンバスクの困惑する声。やった俺だって驚いてるんだ、だってどうして───あのンバスクに、魔剣すらすり抜ける《神血励起》を使いっぱなしの、《無私》のンバスクに衝突するなんてことが起こるんだ!?

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