430話 末世未明その2

 上がり切ったところにも当然、騎士たちはひしめいていた。


 階段を駆け登った勢いを殺さず吶喊する。足蹴にされた神聖騎士の一人が宙を舞ったのをみて、こんな扱いだが彼らは《人界》の守護者、絶対の権威のはずなのだ。こんな風に文字通り蹴散らせてしまうのは、俺も強くなったってことか。


 騎士たちの剣が光り輝く。


 聖別することでこの世ならざる切れ味を剣に宿らせるというそれは、以前《魔界》インスラで雑談混じりに聞いた神聖騎士のオーソドックスな戦法だ。


 《光背》が光剣を受け止める衝撃と、その内側───俺の前に立つヒウィラがようやく自らの《信業》を励起させた気配を感じる。彼女がやるなら大丈夫と、俺は防御に専念。


 黒い瞬きがいくつも生まれ落ちる。


「邪魔です」


 刺々しい言葉がそのまま物質化したかのような、敵意の棘。指一本につき一刺しが神聖騎士たちを貫いた。そこからさらにはじけ飛び、傷口を広げる苛烈さは彼女の内心の激しさをそのまま表しているのか。クールに決めても、内心ではバリバリに戦意を燃やしている。これなら大丈夫、彼女は守るべき弱者ではなく肩を並べて戦う相棒だ。……まあ、本当のところを言えばそんな関係性で満足しちゃいないけれども。


 雑念は置いて先に進もう。ヒウィラの両手の一振りで妨害はなくなった、このまま信庁本殿に突入して───


ぶねえ!」


 神聖騎士ぞうひょうとは一線を画す攻撃は、その射程ゆえ、というだけではない。《光背》の防御がガリガリと削られる感覚は聖別の光剣の衝撃の比ではない。受け止めながら見たそれは、伸びやかな


「───メール=ブラウかッ!」


「何を驚いた、みたいな声を上げてんだ。そりゃ居るだろう、そりゃあ」


 振り返った先、飾り柱のてっぺんに陣取っているのは金髪の美丈夫───で出てきた《鎖》のメール=ブラウ。彼の手に鎖が手繰られ、ぱっと振れば手品のようにあれだけの長さがどこにも見当たらなかった。


 飾り柱は二本、俺たちが上ってきた階段の両脇にある。右側にはメールブラウがいつの間にか陣取っていたが、では左側は空かと言われればそんなことはない。並び立つようにもう一人、


「ンバスク、お前も!」


「今度は始末します。お覚悟を」


 おいおい、いきなりすぎるだろう。


 神聖騎士の上に立つ者。《人界》の九つの頂点、小神相当者あるいは魔王相当者───聖究騎士ホーリー・ナインスが、二人もお出ましとは!


 しかもどちらも因縁の相手と来ている。これは厄介なことになりそうだ───とまで考えて、ふと。


 内心だけで指折り数えて、もう九人中七人とは縁を持っていることに気づいて今更たまげた。何だなんだ、手の届かない超越者みたいな肩書をしておいて、もうほとんど顔見知りばっかりじゃないか!


 気後れするのも馬鹿馬鹿しくなって、俺はフッと小さく笑いをこぼす。

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