429話 末世未明その1
───そして、夜が明けていく。
まだ空に藍色が残る時間帯をひた走る俺とヒウィラ。潜伏していた宿からここまで彼女の《信業》───“不安”色を
いくら夜明け前を狙ったって、《人界》で最も警備が厳重な場所を目指しているのだ。こうして立ち塞がっている神聖騎士の一人や二人や───十人や二十人くらい、そりゃあいるってものだ。
俺たちは足を止めて柱の陰に身を隠す。信庁本殿大聖堂、その前に延々と続く大階段。平時ならばてっぺんまで問題なく進めるはずなのに、彼らは麓から動こうとしない。待ち構えていやがる。
腹を括るしかない。俺は覆いの中、ヒウィラと顔を見合わせる。彼女も頷く。───よし、
「───行くぞ!」
「でしょうね、知っています」
隠蔽を取り払い飛び出す。
魔剣アルルイヤを鞘から抜き放つ快音がしゃらんと響く。今更生っちょろいことは言ってられないだろう、神聖騎士なんだから自力でどうにかしやがれッ!
「貴様ッ───」
愕然とした顔に見覚えはない。良かった、と思う。どうせ信庁ぜんぶを敵に回すのだから見知った顔も斬ることになるのは変わらないにしても、こんなふうに端緒を開く最初の会敵でどさくさ紛れにブッ倒すよりは、それと知った上でやり合いたい。
知らない顔なら、悪いが十把一絡げにさせてもらうぜ。───どうせこの後、何人相手にするか知れたもんじゃないんだからな!
「退け退け、《人界》は終わらせやしねぇぞッ!」
神聖騎士の群れの中に飛び込んでばっさばっさと斬り倒す。アルルイヤにも本気を出させず、あくまで斬る瞬間だけ相手の《信業》をかき消す程度に留めている。首を飛ばしたりもしていないし、まあ、死んじゃいまいと自分を納得させる。
いざ剣を抜いて騒ぎを起こしてしまったからには、もうチンタラしている猶予は消え失せた。俺は一太刀ごとに数人まとめて斬り倒すことで手早く一団をノすと、先行して階段を駆け登っているヒウィラに追いつく。
剣を抜くことすらせず騎士の一団の間をすり抜けていた彼女は、ちらと俺に視線を送ると、そのまま非論理式《奇蹟》では実現不可能な超光速で脚を運ぶ。
「薄情じゃんか、俺ひとりに丸投げて」
「もう追いついてくる人が何を言っているんですか。あの人数だから一番上まで追いつかれないかと思ったのに」
「そんな程度のやつが信庁にカチ込みかけて、生きて帰れるはずもないさ」
「仰る通りで」
軽口を叩きながら階段を疾走する。何段飛ばしか、ほとんど飛んでいるくらいの勢い。一昨日聖都入りして、昨日アレヤ部隊長の家を訪ねるとき以外はほとんど《信業》を温存してきたから、調子は万全と言い切れる。憂いなく決戦に臨めるというものだ。
すぐに引きずり出してやる。首洗って待ってやがれ、ディレヒト・グラフベル───!
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