422話 決戦前夜その2

 抜けた先の《人界》は夜だった。


 《枯界》には夜も昼もない、というのも疲れる一因だ。時間が経過しているのか分からず、砂嵐で進んでいるか実感できないというのは───ぶっちゃけ、眠気を誘うのだ。《光背》維持の負荷がかかっていなければ居眠り飛行もあり得たかも知れない。


 幸いにして雲は出ていない。これで星が見えないようであればもう一丁頑張って雲の上まで出ないといけなかったのが、天候に助けられたかたちになる。俺はへたり込んで楽な姿勢をとると、


「それじゃカストラス、頼む」


「任せたまえ」


 彼が星の位置から現在値を割り出してくれている間、俺は全力で休憩する。見張りはヒウィラの分担だし、まだ《枯界》を移動する可能性は高い。あちらに入れば休みなし、こうしてゴロゴロするべきなのだと自らを納得させる。


 だというのに、ついつい罪悪感から口を開いてしまう。


「こうしている間にが来て、果たして分かるものなんだろうかね」


「仮眠をとるのではなかったのですか、ユヴォーシュ。……それとも、もしかして寝言?」


 さすがに酷くないか?


「起きてるよ。……目が冴えちまって寝れないんだ」


「あら珍しい」


「それで、どうなんだろうな。《人界》が終わる瞬間って、どうなると思う?」


「予兆くらいはあるのではないでしょうか。それこそ、今にも儀式が完了して《人界》が終わるとなれば、咄嗟に《枯界》に退避できる程度には」


 神のすること、きっと派手で祝福に満ちているでしょうから───そう呟くヒウィラの言葉は内容と比して興味はなさげで、その口調で、ああ彼女も《真なる異端》になったんだな、はもうないんだなと遅れて染み入るようだった。


 それはそれとして、折角返事をしてくれたんだからぼさっとしているのは悪い。起きてはいてもあんまり回転数の出ない思考で、ヒウィラの言葉をよく噛み締める。


 なるほど一理あるように思える。キラキラと煌めいて光に埋め尽くされていき、ゆっくり最後にはホワイトアウトしていく───というのは、確かに世界が終わる時に相応しいように感じる。けれど本当に、そんなをかけるだろうか? グジアラ=ミスルクからすればこの《人界》、この劫はもう用のない舞台なのだから、もっとあっさり明かりを消すように真っ暗になって後には何も残らない方がそれっぽいんじゃないだろうか。


 俺がそう反論すると、ヒウィラはどうでも良さそうに、


「ならば賭けますか。どちらが正しいのか」


「それ、確認できたときには信庁カチ込みに失敗して負けて、俺もヒウィラも消えてるから不成立だろ」


 そもそも、負けたときの“もしも”なんて考えるとアヤがつく。もっと前向きな作戦会議の一つでもするべきだったと思いつつ、疲れた頭じゃどうせ内容は残らないなと考えればこのくらいの雑談でちょうどいいのかもしれない。


「それに、俺もどっちかっつーとヒウィラの言ったほうが好きだ」

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