421話 決戦前夜その1
風が逆巻いている。
此処に風なんて初めてで驚いてしまう。視界は完全に喪失していたが問題はない、ここで警戒するようなものは何もない───はずだから。
危惧すべきは俺の体力、気力が続くかどうか。微弱でも《光背》を維持し続けるだけのスタミナが要求され、今までとはまた違った疲労感に苦しめられている。目印もないこちらをこれだけ長距離に渡って移動するのは初めてで、うまく行くかは賭けの要素が大きい。
警戒とは違うがもう一つ、見逃せない反応を検知して俺は《光背》の飛翔を停止させると、同行しているヒウィラとカストラスに声をかける。
「あった。かなり来てるし、方角を確認したい。一旦出よう」
「やれやれ、またか」
ヒウィラはもう何も言わない。既に三回目か四回目だから、もう慣れたのか、言うだけ無駄だと諦められたのか。
既にこっち側に来てしまった以上、どのみち一回は戻るんだから同じだろ。今まで失敗したこともないんだし───そう言ったら噛みついてくるんじゃないかって目で睨まれたので、もう言わない。ただでさえ移動は俺しかできないんだから余計な疲労はしていられない、なんて口に出せばまた怒らせるだろうという予想は出来るようになった。
《光背》をゆっくりと降ろしていき、着地するとざふっと柔らかい音。
「それじゃ
「これがまた最悪なんだ。そもそもどうして、《枯界》に嵐があるのやら」
「晴れる気配もないですし、やはり諦めて《人界》を行くべきだったのでは?」
「忍び込めないだろ。というか、口じゃなく手を動かしてくれって。砂まみれになりたいのか」
つまらない言い合いを繰り広げるここは、そう、《枯界》。万象が枯れ果て、凪いで砂のみが占める虚無の領域───のはずなのだが、どうしたわけかもうずっと、猛烈な風が吹き荒れていて何も見えない。これが二人には大不評で、こんな言い争いももう幾度目か、数えるのも止めてしまうほどだ。二人からすればこんな案を出しやがってくらいに思っているらしく、《枯界》にいる間の不満は全部俺のせいってことになる勢い。やれ《光背》を解除するタイミングが悪くて服の中に砂が入ったの、やれ移動中の《光背》が狭すぎて肘が当たるだの、《信業》を維持し続けている俺の気も知らずあれこれ注文を付けられればカチンとくる。
こうして立ち止まってみないと自覚できなかったが、思っていた以上に疲弊している。これがあと倍の距離続くようなら、俺たち一行は信庁への殴り込みよりも先に、同士討ちで不戦敗になりそうだ。
どうか聖都に近づいていてくれと願いつつ、すったもんだありながら、発見した不安定《経》を開いて《人界》へ一時帰還。こうやって時折確認しないと、《人界》と《枯界》の位置関係が必ずしも照応しているとは限らない。方角までダイナミックに狂っているときもあれば、距離がズレていることだってある。魔術的には平面と平面を重ね合わせているのではなく、何だか言うひずみがあるかららしいが、そんな蘊蓄を砂嵐の中で語られても言っちゃ悪いが無益でしかなく、そこでひと悶着あったがそれは置いておいて。
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