420話 九柱世界その9

「時間はどれくらい残ってるんだ」


「もう大して残っていないよ。仮に此度の大騒動のの時点で既に廻す準備をしていたとして、あと二日ってところか。とはいえ大神すら光臨できなくなる異常事態、即座に最終手段に訴えるということはしないだろうと考えれば追加で三日はあるかもしれない」


「その間ですか。……聖都まで、結構遠くありませんでしたっけ、ここ?」


 ヒウィラの指摘はその通りで、前線都市ディゴールから聖都イムマリヤは最速の伝令でも四日かかる距離にある。以前、年次信会オースロストのおりに聖都までえっちらおっちらと馬車を転がしたときには、もっとずっと時間がかかったのを覚えていたのだろう。


 転移紋を使って一跳びできればそれこそあっという間なのだが、まさか信庁が使わせてくれるハズもなく。


「というか、時間もそうですがどうやって本殿最奥まで行くのですか。ユヴォーシュが潜入が得意な印象はありませんが」


「そうだよね。最終的には力にもの言わせてネジ込むもんね」


「見てきたように言うな。そんな毎回やってないだろ」


 いややってるかもしれん。この際それは無視する。


 流石に今回、正面から吶喊して全神聖騎士を敵に回しながらの大立回りをやっている余裕はないし、何より突入をカマすより前に密やかにやっておきたいこともある。どうにか忍び込むための経路と、そこに至るまでの道のりについては既に考えてある。


 早速説明してみると、


「……なるほどね、それなら潜伏も可能かもしれない。そのためにホイホイと命を賭けられる度胸バカさ加減と併せて評価に値する」


「貴方、本当に好きですよね。正気の沙汰とは思えないです」


 思わぬ高評価を得られた。いや、念の為だが俺は罵倒に喜んでるんじゃないんだ。案が上手くいきそうだという評価を求めていただけで……。


 閑話休題。


「それにしても、そこまでして忍び込んで、一体なにを?」


「会っておきたいヤツがいるんだ。このままだと話す機会もなさそうだし、《人界》が滅ぶ前にな」


「誰ですか」


 俺の言い回しが誤解を招くものだったのは反省すべき点だけど、それにしてもヒウィラの不貞腐れようったらなかった。どうにかこうにか説明して、君の想像するような相手じゃないと言い聞かせて、やっとこさ機嫌を直してくれるまでえらいかかった。


「……はあ、分かりましたから。……いえ、でも、どうしてその方と?」


「気になるね。君に勝算があるとしても危ない橋を渡るのだと理解しているか?」


「散々な言われようだ」


 ちょっと目を離したらどっか行ってる子供か何かだと思われていないだろうか。心外だ。


「大丈夫だって。九人もいるんなら一人二人は、そん中から外れてくるやつもいるもんだ」

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