419話 九柱世界その8
「《人界》のうねる感情をどうにかしようというのは、それは建設的な案とは言えない。結局のところ《大いなる輪》を叩くしかないんだ」
「それは……そうですね」
「いっそ破壊しちまうってのは、どうだ?」
「止めておいた方がいい。どうなるか見当もつかないから」
名案だと思ったのだが、カストラスの声は厳しかった。しかし確かに彼の言葉には筋が通っていて、俺は唸りながら可能性を検討してみる。
まず祭具を壊せるかという壁もあるが、その壁を越えることができてしまったと仮定して。
あるいは《人界》を次の劫へと移行させるのが不可能になるだけかもしれない。
あるいは《人界》のカタチを保つ外側の《大いなる輪》が連動して壊れ、すべてが《経》の中のようななにもない領域にブチ撒けられるかもしれない。
あるいはもっと、現時点では想像もつかない問題が発生するかもしれない。
「次の劫へ移行できないことそのものが問題になるかも。私たちは劫が進まなかった場合に何が起こるかを実は知らないんだ。何も起こらないとは限らないだろう?」
「……確かに」
《大いなる輪》を廻せば《人界》は滅び去るというが、廻さなければそれはそれで行き詰る可能性だってある。
万一を考えれば確保するだけして、廻すという
「どんな見た目なんだ。いや、見た目はそりゃあ輪なんだろうし、デカいんだろうけど。……どのくらい、大きい?」
「そうだなあ、……ユヴォーシュ、手を」
「あ?」
いきなりカストラスが俺に手を差し伸べてくる。何だ急に気色悪いなと思いつつ繋ぐと、彼はそのまま両腕を目いっぱい広げる。俺もそうするように促されてどうしたいのか見えぬまま言う通りにすると───
「これくらいだな」
「何が?」
「随分……大きいですね」
「だから何がだ?」
「だから《大いなる輪》が。私と君が手を繋いで、思いっきり手を伸ばしたくらいの直径だよ」
「……マジ?」
そんなものを持って信庁から逃げろって、そりゃあ面倒なんてものじゃないぞ。それは……その……何て言うか、そう。
最高に面倒だ。
そもそも非現実的だ。《人界》の最高峰が集う聖都イムマリヤ、その中心に位置する信庁本殿のさらに一番奥に安置されているであろう祭具を抱えて(というか担いで)脱出し、追跡を振り切って逃げるなんてのはちょっと夢物語にも程があると言われる類だろう。
もっとマシな方向性で論じるべきだ。つまり、
「……どうにも追ってこられないよう、全員蹴散らさないとならないってことか」
「ユヴォーシュ、その冗談、全然面白くないですよ」
ヒウィラには真面目に受け取ってもらえなかった。本気で言ってたのに……。
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