417話 九柱世界その6

「どうすれば止められる。何を、すればいい」


「《大いなる輪》を廻させたらダメだ。とにかくそれに尽きる」


「それってのは……遺物か?」


「一種のね。祭具と呼ばれるそれらは、人が造った遺物とは明確に異なる───グジアラ=ミスルクが造り給うた遺物。世界運行のために用いられる舞台装置さ」


 曰く、《大いなる輪》はこの《人界》のカタチを保つの概念に近いそれと、信庁最奥に奉じられている物質的遺物の二種類が存在し、どちらも《大いなる輪》なのだという。物質的遺物の方を廻すことで《人界》は次の劫へと進行し、新たな《人界》の在り方を外側から支える、らしい。


 そりゃあ別のものなんじゃないかと訴えても、カストラスは頑として認めなかった。魔術的に両者には繋がり以上の同一性が存在し、それゆえに高次的な同調を果たすことでどうにかするんだそうだ。


「……よく分からないが」


「愚かだな、実に愚かだ」


「分かるように説明してから言え、そういう罵倒は。……とにかく、その《大いなる輪》───祭具を廻す儀式を止めればいいんだな」


「ああ。逆に言えば、祭具が廻り切ってしまえばオシマイだ。《人界》の生きとし生けるものは全滅する」


「冗談じゃねえや」


「あの、話しの流れからすると聖都に殴り込みをかけるように聞こえるのですが」


「まあそのつもりだな」


「他に止める手段はないのですか。《大いなる輪》をどうして廻すのか、理由や条件と言った方向から解決策を探れば───」


「それは……カストラス、どうなんだ」


 神域の智慧者は肩をすくめる。


「まあ、可能性を潰していくのは賢明だ。例え結末が見えていたとしてもね」


 口ぶりからして直接祭具を叩く他ないと言っているようではあるが、具体的に何が起きるのか知っておくことは重要だ。いざその時になって知らなかった、だから驚いて隙を見せた、では致命的なのだから。


 急いで止める必要はあるにしても、ここで話を聞くくらいの時間はあるはずだ。一刻の猶予もないならのん気に義手なんて用意して回復を待ったりしないだろう。


 いつの間にか浮かせていた腰を落ち着けて向き直る。


「さ、話してくれ」


「そうだな……。まず、理由は明快。=。それ以上の命令は存在せず、それ以外の理由は不要となる。信庁が《人界》を統べてきたのも、そもそもグジアラ=ミスルクが《人界》や《魔界》や《龍界》や《妖圏》を───つまり遍く《九界》を創った目的こそは、それぞれの世界の劫を進めてことにある。《真なる異端私たち》でもない限りそれに逆らおうなどとは考えまい」

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