416話 九柱世界その5

「その結果、仕組みが一部なりとも破綻したんだろうな。私は小神として列せられる代わりに不老不死として放逐され、当時は九聖卿ではなかった男───現・機神ミオトが私の代わりに小神となっていた。思うに、この不死身は疑似的な小神としての特性だ」


 《人界》を支える小神は、大神の加護によってその命を保障される。直前までそうなるはずだったカストラスに混線して不死性が流れ込んでいるのが原因と考えている、という。


 彼を殺したければ大神がそう定めている法則ルールを越えなければならない。ニーオが挑戦しようとした占神シナンシス殺しでもないのなら、それこそ神聖騎士たる《絶滅》のガンゴランゼの《信業》程度では天地をひっくり返さない限り不可能ということか。


 《信業》を失ったのも一連の流れによるもの。小神との契約者は小神に列せられる際に《信業》を取り上げられ、契約の血による《神血励起》の外付け装置同然の存在になる。それと同様の処理が、土壇場で九聖卿を辞したカストラスにも起こったのだろう。


 おおまかではあるが現象の推察は立った。あとは動機だが───


「なんでを消したりしたんだ。そんなに奉ぜられるのが嫌だったのか?」


「君は、なれるとしてなりたいかい? 小神にさ」


「いいや、これっぽっちも」


「同じことさ。私もそんなのは御免だった。だからどさくさ紛れに逃げたんだ」


「……そうか」


 ───初めて出会ったのは学術都市レグマの路地裏、怪しげな店舗だった。魔術師を探していた俺と彼が出会って、とんとん拍子で話が進み、意気投合……とはいかないまでも、互いに危ない橋を渡りながらの関係を築けたのがそれなりに不思議だったものだが。


 なんて事はない。結局、俺とカストラスは似た者同士だったんだ。


 自由を渇望してしまうその一点に於いて。


「……初めてする話だって言ってたな。どうして俺たちにしてくれたんだ?」


「ふとそういう気分になってね。あとはほら、このままだと君たちも不老不死そういうふうになるかも知れないだろう? 《真なる異端》だから不老不死になったのか、聖究騎士を辞めたから不老不死になったのかはおいそれと検証できることじゃない。どちらもあり得る」


 確かに。


 《人界》の劫が移り変わる時に、《真なる異端》はうまく処理できず不老不死になるなんて可能性も捨てきれない。そうなってしまったら……どうしよう?


 死ぬよりはいいんだろうか。死んだ方がマシなんだろうか。


 ───どっちも御免だ。俺は俺の終わりまで、俺の人生を全うしたい。


「止めに行こう。今起きていることを、聖都で進行している儀式を。不老不死になんてされてたまるか、《人界》を次に移されてたまるか!」


「まあ、君なら」「そういうと思っていました」


 息ピッタリだな。それともそうなるくらい俺が分かりやすいのか?


 追及はしないでおくことにした。

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