414話 九柱世界その3

「そりゃあアレコレ知ってるはずだ、なんたって神歴九百年近くの積み重ねが───九百年!?」


 自分で整理していて自分で仰天してしまった。よっぽど間抜けに見えたのか、カストラスの視線が突き刺さって痛い。


「言ったろう、不老不死だと」


「いやでも、いつぞやは四百年とかって……」


「それは家を興した時期さ。私はそろそろ千年を数えるころだとも」


 気が遠くなりそうだ。俺の何倍生きているか計算するのも嫌になるくらいの間、ずっと。それはいったいどんな人生なのだろう。想像もつかないし、勝手に思いを馳せて同情やら何やらするだけでも失礼にあたりそう。


 友人に対してすべきことは、「疲れた」と言ったら「お疲れ」と言ってやることくらいのものだろう。頼まれもしないのに引き受けてやるのは自由じゃない、傲慢だ。


「千年。どうでしたか?」


「うん、まあ、長かったよ」


 俺がしんみりしている横でものすごいあっさりと年月を流さないでほしい。


 内心がよっぽど顔に出ていたのか、それともカストラスが目ざといのか。どう反応すればいいか困っている俺に、


「そこ、本題に入る前に体力を消耗しているとついて来れないよ。言葉は悪いが、この劫の九百年ほどはぶっちゃけんだから。今話しておきたいのはその前の話なんだから」


 曰く、今の劫に廻ってからの彼は不老不死ではあるが、なのだという。特別語るような内容もなく、強いて言うならカストラス家を興して見守っていたことくらいであとは起伏もないのだという。俺が「いやいや処刑されたりしてたろう」と言っても、「それくらいは別に大したことでもない。よくある出来事イベントの一つさ」とまで言われれば、そういうものかと受け入れる以外、俺たちにできることがあるだろうか?


 これが自分の力───《信業》なり魔術なり───で不老不死になったというなら、それだけの力を掛けている以上、相応のがこもった起伏ある人生になるものだ。けれど彼はそうではないという。放っておいても死なない、何もせずとも生かされている身では


 重要なのは、生きているかどうかよりも───どう生きようとしたか、そういった意識の力の掛かり具合。


 その点で、やはり話すべきは前の劫のこと、なのだろう。彼がまだ不老不死ではなく、生きるために必死だった頃の話。




「私はね、もとは《信業遣い》だ。九聖卿───この劫で言うところの聖究騎士ってやつでね。まあ、その立ち位置のせいでこんな老醜を晒している訳なんだが……」


「な───何だってェ!?」


 ───その語りだしは、とんでもない始まり方をしたのだった。

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