412話 九柱世界その1

「さて、それじゃ繋ぐよ。……五、四、三それ!」


 カウントダウンの途中でいきなり目から火花が散った。


「ッッぎ───」


「ちょっとカストラス! ふざけるのも大概になさい!」


「ごめんごめん、つい」


「つい他人の身体で遊ぶんじゃねえよ……」


 まだ痛みが残っている。なにせちょっとした拷問だ、慎重に繋ぐべき銀線を勢いよく神経に接いだのだから!


 死んだかと思った。


 とはいえ罵倒することもできない。荒っぽくても悪戯っぽくても、俺たちはカストラスに任せるしかない。そのおかげでこうやって、


「さ、動かしてみたまえ」


「───よし、動く動く」


 ロジェスとの死闘で失われたはずの左腕。そこに今まで通りに意識を向けると、思った通りに動く腕───のような機構がついていた。


 カストラス謹製、魔導義肢。


 不死ゆえに永く生きてきた彼の精妙巧緻のなせる業。人の腕にできることはすべて出来るをポリシーに、の腕を完璧に仕上げてきやあがった。俺は看病される朦朧の中でも確かに、「俺のは雑でもいい、戦えればいい、ヒウィラのはちゃんとしたやつにしてくれ」って伝えたはずなのに、どっちも仕様を追求している。


「……誰がここまで仕上げろっつったよ」


「君はまだまだ魔術師という輩に対する理解が浅いと見える、ユヴォーシュ」


「あんだと?」


「魔術師というのはね、そりゃあ『金に糸目はつけないから全力でやれ』と言われれば腕によりをかけてやりたい放題やるさ。けれどね」


 次いで一言、さぞや楽しげに、


「『手加減しろ』と言われてできる性分でもないのさ。困ったことにね」


「……そうかよ」


 呆れて肩をすくめるしかない。どうせこいつは俺がこの魔導義手を使ったあとで、『うんうん問題なさそうで何よりだ。ところでその腕を造るのにあれやこれやの材料が必要だったから請求したいんだが、いいかな?』とでも来るのだろう。この際だから細かいことは抜きにして、全部決着がついたら腕のぶんくらいは出すも止む無し───そう思っていたら、


「ユヴォーシュはここまでの逸品を求めてはいませんでしたよね?」


「え、あ、うん」


 横から(でもないのだが)ヒウィラが割って入ってくる。彼女も揃った両腕で身を乗り出しながら、


「ならば請求は不当です。その旨きっぱり告げておくべきでは?」


「ええ? 勘弁してくれよ、ややこしいなあ」


「この腕はカストラスがあれこれ付け加えたもの。私たちの予算を上回るようならば、支払いを拒否する権利もあるかと」


「おっとそう来るか。ならば支払いがない以上、その商品うでは回収させてもらってもいい、と考えられはしないか?」


「───あッ」


 海千山千のカストラスに箱入りのヒウィラじゃ勝ち目がない。これ以上言い合いに興じていても話が進まないし、じゅうぶん楽しませてもらって気分もほぐれたし、そろそろ本題に移るべく俺は苦笑しながら口を開く。


「ヒウィラ、いいから。ここで金を惜しんでも仕方ないだろ。───それでカストラス、話って何だ。腕の件だけじゃないのか?」

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