406話 不帰光芒その11
魂の領域が半分くらいまで縮んだ瞬間が、その時だった。
───来たか。
魂の覚知圏に眼や耳はついていない。一つの魂の中に別の魂が踏み込んでくる異物感を捉えるもので、そういう意味ではかつてのユヴォーシュ───魂なき化身であったなら弱点を衝けたのだろう。今となっては詮無きことではあるが。
間違いない、ユヴォーシュの魂を持つものが
瞬間、《九界》に割り込んでいたロジェスの魂が、潮が引くようにかき消える。
正確にはロジェスの肉体に回帰したのだ。至高の一刀を放つために余計な魂を溢れさせているのは無益だし、何よりあの状態のまま放てば自分の魂まで断ってしまう。自傷の趣味はない、斬りたいものはただ一つ。
ユヴォーシュの、二の腕から寸断されて宙を舞う左腕───だけ?
「───な、に?」
そんなはずはないとロジェスは狼狽する。確かに感じたんだ、ユヴォーシュの魂が宿っていたんだ。いいやそもそも、彼の腕は傷つけはしたが切断するまでには至らなかった。自分で斬り落としたのか? ロジェスを乗り越えれば治せるようになるかもしれないのに、まだその可能性はゼロではなかったのに、諦めた、と?
「──────お前はッ!!」
叫べどもう止まらない、踏み入ったものを絶対に斬るという決意で始動した一閃は、ただ宙に放り投げられた腕を真っ二つにするべく肉体を駆動させる。本当に斬りたいユヴォーシュは、さっき立っていた場所から一歩だって動いていない───届かない!
左腕を喪失したユヴォーシュはくたびれた笑みを浮かべ、
「じゃあな、ロジェス、おわかれだ。帰ってくるんじゃねえぞ」
右手を伸ばす。
握りこぶしを解く。
その内で圧縮されていた《光背》が解放される。
まばゆい閃光がすべてを置き去りにさせる。まんまと陽動に釣られ、左腕を無意味に真っ二つにした直後のロジェスになすすべはない。吹き飛ばされても別にどうということはない、追いかけっこがしたいなら飽きるまで付き合ってやる───とは思えなかった。
演技にしては、彼の言葉。あまりにも真に迫って切なげだったから。
自分でも理解できない焦燥感に駆られながら、ロジェスは光に逆らうようにもがく。けれど何が起こっているかも理解できていない彼がじたばたしたところで、《光背》は容赦なく彼を吹き飛ばしていく───時間と空間を超え、世界の枠すら突き破って、ユヴォーシュの知る外側まで。
ロジェス自身を一筋の光芒となさしめる。消えた後には、彼の存在を示すものは何一つ残っていなかった。
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