404話 不帰光芒その9
「余計なことを、しやがって……!」
ロジェスの呼吸音がおかしい。ヒウィラに握りつぶされたときに呼吸器官を損傷したか。バスタードソードを杖にして立ち上がり、まだ戦意は尽きていない───構えには一分の隙もない。
俺の真後ろにはヒウィラが倒れている。腕を欠損した激痛で意識は半ば朦朧としているらしい。いつの間にか庇って立ちはだかっていることに驚きはない、そうじゃなきゃ何のために走り出したか知れたもんじゃないから。問題はずっと忘れていたということ。
俺が死ねば、彼女は独りぼっちだ。なのに勝手に『死んでも勝つ』とか考えて、後先を捨てて真剣勝負に応じようとしていた。
怒られて当然だ。俺の腕の傷も彼女の腕の傷も、全部俺の責任。
「そいつを退かせろユヴォーシュ。俺とお前の戦いに余分は要らないだろ」
「───そんなこと、何でお前が決めつけんだよ」
ヒウィラは余分なんかじゃない。俺の大事な仲間で、俺のために飛び出してくれたんだ。ロジェスとの戦いに集中するって意味じゃヒウィラの安全を考慮するのは思考的負荷かも知れないけれど、心強さで言えば居てくれたほうがずっといい。
俺の後ろには動けない彼女がいる。彼女を守るためには勝たなきゃいけない、そのためには真っ向勝負になんてこだわっていられない。
不自由だ。けれど俺は彼女を庇う不自由を選んだ、そういう俺の自由がある。
そのために俺は戦おう。
「お前みたいに斬り捨てるばっかりの奴は、凄いと思うよ。俺にはできない」
あれもこれもで、一意専心なんて夢のまた夢な俺とはきっと明確に違う考え方。
けれど凄いとは思っても、それが偉いとは思わない。
目の前のことに囚われてすぐにあちこち寄り道したから今の俺がある。そのせいで迷惑をかけたことばっかりだけれど、自分を否定していたら何もできないだろ。俺は俺なりに胸を張って生きるって決めてるから、
「お前との決着には付き合えない。悪いな、ロジェス───!」
「ふざ、け、る、なァァァァッ」
「───オオオオオオオオオアアアアアア───」
変性して伝わらない声は風のように響く。互いの立ち位置が明確に隔絶した証のようで、猛烈な寂しさを覚えるけれど歩み寄る道はもう俺自身の手で潰してしまった。
無防備に突っ込めば、史上最高練度の《割断》に斬殺されることだろう。
「そんなのは御免だな」
俺は深い裂傷を負った左腕が、本当にもうダメか確かめるために力を入れた。
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