403話 不帰光芒その8

 《光背》は《割断》に破られてばかりだ。


 それが自然だと思考に刻み込まれていた。前提としてと考えさせられていたのがそもそも誤りで、彼に勝ちたいと考えるならばそこから乗り越えなければならないのだと気づいたのは今更だ。


 全力の底の底まで攫ってぶつけてやる。今度はロジェスの身体を吹き飛ばすことで間合いを取るとか、そんな逃げじゃない。刃そのもの、《割断》の業を克服してみせる───そう思って集中を高める。


 握る手の中には見えずとも光が宿っている。密度を上げるイメージで強く、もっと強く握って、解き放つその瞬間まで昂らせる。


「ああ───そうだ、それが欲しかった。お前の最高を、俺の刃が超克する刹那を」


「抜かせ。勝つのは俺だ───お前に敗北を突き付けてやる。受け入れざるを得ない決然とした形で」


 互いの《信業》が高まり、共鳴していく。俺が発した《顕雷》と、ロジェスから発された《顕雷》が混じり合って円形の場が形成される。何者にも邪魔はできない、割って入ることなど叶わないとばかりに広がるそこに、


「勝手に───何を、しているんですかッ!」


 横から捻じ込まれたそれは、《澱の天道》の奔流かと勘違いした。


 声の主はヒウィラ。介入手段は彼女の伸ばした右腕───それが途中から黒く太い大蛇のように変化してロジェスを掴み、握りつぶしているんだ。


 こんな心象の発露は見たことがない。敵意と似ているが、あれは棘のかたちをとって撃ち出されるもの。黒腕には逃げたり逸らしたりさせない、絶対に離さないで仕留めるという───これは、か!


 腕に力がこもる。ロジェスの言葉なき呻きが漏れる。俺に向けて刃を研いでいた彼からすれば、無防備なところに横から痛烈な一撃だろう、顔が苦悶に歪んでいる。でもそれだけじゃない、苦しみよりも色濃く、憎悪、が───!


「邪魔をッ、するなァッ!!」


 ロジェスの咆哮と共に刃が走る。俺に向けて仕上げていた《割断》が斬り裂いたのは彼を掴む怪腕。───ヒウィラの、右腕。


 指が手が腕が、ばらりばらりと斬り裂かれて零れ落ちていく。ヒウィラの絶叫が響く。あの腕は新たに造り出したものではなく、彼女の実物の腕を変形させたもの。ロジェスを超えない限り否定し得ない破壊せつだんがヒウィラの身に刻まれていく。


「止めろォォォォ───ッ!!」


 瞬間、思考回路が焼き付く錯覚。次の瞬間に起こった剣戟を俺は正しく認識できなかった。もっと本能的なところで息を殺していた獣が目を覚まし、荒れ狂って引っ込んだような戦い方をしていたように、思う。


 《光背》が爆発し、魔剣の黒アルルイヤが軌跡を刻み、


 白刃が閃いて、鮮血が迸る。


 再び立ち上がった時、俺の左腕は繋がっているだけの有様で、


 ロジェスの片目はズタズタに破壊されていた。

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