402話 不帰光芒その7

「今のもう一回やって見せろよ、いいやいい、構やしねぇ。今度はブッた斬ってやるって言えばどうせやるだろ───」


 両の手でバスタードソードをしっかと握り、嵐もかくやとばかりに《顕雷》を迸らせる。さっき以上の一撃を、動けそうにもない俺にブチかまして幕引きとしようって魂胆らしい。


 俺は僅かでもいいから時間を稼ごうと、せめて口を動かすことにした。


「それがお前の《神血励起》か……。カミサマに『もっと寄越せ』って頼み込むのは恥ずかしくないのかよ、《割断》の」


 ニーオリジェラの《火起葬》が、中れば絶対に焼き貫き殺す火焔の槍であったと聞いたことがある。ロジェスの《割断》───如何なものであれ絶対に斬り裂き、分け隔てて二度と元には戻らない剣こそは小神より授かりし《神血励起》に違いない。


 そう思っていたのに、


「寝ぼけたことをぬかすな。これは徹頭徹尾俺の《業》だ。そもそも、俺は神から何かを授かった覚えなどない。俺は俺の剣が通ずるところを見定めたいんだ」


「───マジ、か」


 ずっと俺は勘違いをしていた。


 《真なる異端》になったロジェスが、どうして《神血励起》を使えると思っていたのか。神と縁を切り、未練を残さず、一個の自由人として俺の前に立つロジェス・ナルミエは芯まで魂が透っている。


 俺と同じだ。《暁に吼えるもの》の支配から逃れ、どうにか己の責を己に認められるようになり始めたこのユヴォーシュ・ウクルメンシルが向き合うべき相手。


 そこには《神血励起》のような余計な茶々は入る余地がない。《真なる遺物》たる魔剣アルルイヤだってそうかもしれなくて、彼に勝ったと胸を張りたければ一個の俺だけで勝たなければ意味がないんじゃなかろうか?


 ロジェスの刃を防げないのは、純粋な俺の力不足か、あるいは彼の剣に俺が絶対を見てしまっているから。最初から負けて当然と思っているものにどうして勝てようか。


 ……勝ちたい。


 正々堂々、自分の力だけで、ロジェス・ナルミエを超えたい。


 さっき宣戦布告されたときに、俺にだって勝ちたいみたいなことを言っていたのはあれはきっと嘘だったのだ。だって今こんなにも胸に湧き上がる渇望と比べれば、あんなものは弄言でしかない。このは疑いようもなく本物で、さっきのは偽物だったのだと言い訳をするしかない───!


 負ければ死ぬ。けれどそれを恐れるな。恐れればロジェスの刃が勝り、負けの未来は確定してしまう。


 死んでも勝つ、そのくらいの気概を持てずにどうしてあの男に勝てようか。


 俺は魔剣を鞘に収める。


「……そうだ、その眼だ」

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