401話 不帰光芒その6

 頬の肉が削げる。


 断面を打ち砕いているところに横からロジェスが挟撃してきて、そちらへの対処が遅れたんだ。何を無視してもロジェスの握るバスタードソードの刃、それだけは避けないと即死する。だがだからと言って、他の攻撃は全く無視できるかと言われればそうもいかない。


 今や彼は剣を片手で振るい、もう一方の手を手刀として振るう二刀流。どころか爪先蹴りからも空間の裂け目が走るし、何なら彼がただくるっとするだけで周囲がズタズタに引き裂かれる。


 どれもという一点だけで真剣よりはマシというだけで、危険極まりない破壊を巻き起こすことに変わりはない。絶対の《割断》を優先してそれらを喰らい続ければいつかは倒れるのは自明の理。


 そしてそれは、ロジェスの方も同じことだった。


 魔剣アルルイヤの《信業》喰らいは既に知られている。彼の身に突き立てられればそこから身体強化を噛み砕いてしまえるが、それだけはさせまいと全力を傾けているのが見え見えだ。だからこそ、俺の蹴りだの《光背》の反転だの火焔剣だの、そういったをさばききれないでいる。


 互いの一撃必殺を警戒するが故に、俺たちはじりじりと消耗戦を続けていた。といっても地味なそれではなく、気にかけている余力などないからド派手に街を巻き添えにしている。俺が踏み込めば石畳は浮き上がり屋敷は粉砕され、ロジェスが振るった腕の先は何があろうと文字通り軒並み寸断されていく。


 そこいらじゅうに眷属だった被害者たちが転がっているから、二次被害を恐れる気持ちは確かにある。だがそのためにロジェスに殺されてやるか、と言われれば話は別だ。俺にできることはせいぜい、この乱暴者の刃が俺以外に向かないように夢中にさせることくらい。俺を見て、俺だけにかかりっきりになれ、わざわざあっちこっちに剣閃を撒き散らしてなどいられないと思わせてやる───!


「俺を見ろッ、ロジェス───!」


「いいとも、だから、もっと魅せてくれ───!」


 俺の動きを完全に読み切って、ロジェスの握るバスタードソードが俺の首を刈り取る軌道を描く。回避は間に合わない、アルルイヤでも防げない。これは死んだか───いいや冗談じゃない、簡単に諦めてたまるか、納得してたまるか!


 


 脳が弾けるような刺激を覚えながらも、《光背》を極限まで開放する。斬り裂かれながらも吹き飛ばし、ロジェスが剣を振り切った時にはもうそこに俺の首はない。太刀筋はすべてを分かつとしても、それを放つロジェス自身はそうじゃなかったな。どうだ!


「殺った、と、思った……か? おいおい今のヘロヘロな剣で俺が死ぬかよ、なァ!」


「へッ───」


 信じられないと言いたげなロジェスの口から代わりに変な音が漏れる。


 オトは連続し、やがて笑い声になった。


「へッへッへッ、へへへへははははは!」


 どこまでも無邪気に笑うロジェスに、俺もつられて笑い出しそうになる。とても笑っていられる状態ではないのに。


「そうだ、だ! 絶対に絶つと決意して───確信して───そして放った一撃を、お前は何だ、破ったってのか! ふざけんな、そんなヤツは今まで一人たりとも居やしなかったってのに!」


 怒ってんのか喜んでんのか、もはや支離滅裂な内容をまくし立てる。勝手にぬかしていろと斬りかかりたいのに、足が前に出ない。限界を超えた反動は優しくない、一難去ってまた一難とすら評したくなる激痛。涙を我慢できなかったと思って拭ってみると、手の甲にべったりと血が広がっていた。眼から出血してやがる。

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