400話 不帰光芒その5

 瞬いて、また街が破壊されていく。


 ヒウィラは都市政庁の屋上から状況を把握しようと努めるが、流石に厳しかったようだ。ここからディゴールの街並みを一望はできても、ちっぽけな人ひとりを認識するには至らない。響いてくる音と、倒壊で立ち昇る土煙でを把握するので精一杯だ。


 まだ眷属が残っていたのだろうか、と彼女は考えている。その可能性は低いんじゃないかと疑いつつも、まさかロジェス・ナルミエがユヴォーシュと決着を付けに襲撃してきたなど想像だにしていないのだ。


 彼女にとってのロジェス・ナルミエとは、《人界》のために大魔王マイゼスを討つ仕事人のイメージなのだ。深く関わった機会は《魔界》インスラを行く旅路だけだったし、ユヴォーシュから「彼は危険人物だ」と説明を受けてはいたものの実感も湧かない。なにせ当のユヴォーシュ自身がロジェスに負けたことなんて語りたがらないのだから危機感など抱けようはずもない。


 だから残存していた眷属との交戦くらいしか思い浮かばない。実際は彼女による天上の魔法陣の完全な破壊と、最後の大眷属たるガンゴランゼ・ヴィーチャナの撃破によって《暁に吼えるもの》はこの《九界》から追放され、手出しなど出来る状態ではなくなっている。大魔法陣破壊のカリエとレッサは糸が切れたように気絶した事実から、彼女も決着がついたとうすうすは察していた。


 決着がついたはずなのに、一体何が起こっているというのか。


 ときおり瞬く光源はユヴォーシュの《光背》のはず。ならばあの黒い断層も彼の新技───魔剣と《信業》の合わせ技かと思うが、ならば次なる疑問が浮かんでくる。


 あれが新技だとして、そんなものが必要になる相手とは?


 先刻から幾度も激突を繰り返しているは、ユヴォーシュをそれほど苦戦させているのか?


 もう何度目か知れない、衝突。街に刻み込まれる破壊の痕跡。


「───いや、だ」


 すぐに終わると思っていた。気力の大半を使い果たしてもう指一本だって動かせないから、行っても助けにはなれないし───必死になって駆け付ける間にユヴォーシュなら何とかしているだろうと。


 ヒウィラは自分を引っ叩きたくなった。


 あれほど、ユヴォーシュと対等でありたいと願ったのだから、今こそ彼の力になるべきだろう。彼女は気力を振り絞って立ち上がる。今なら、今こそ新規開拓できる感情イロもあるはずだ。

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