399話 不帰光芒その4

 と音がして硬い手応えが返ってきたとき、俺は自分の感覚器官をまず疑った。


 アルルイヤがロジェスの片腕と鍔迫り合っていた。薄皮一枚すら斬り裂けていないのはいくらなんでも嘘だろう。指の一本までぴんと伸ばして左腕全体を手刀に見立てたからって尺骨で魔剣を受け止められるはずないだろ!


 ロジェス自身そう思いながら咄嗟のことだったのか、浮かべているのは引き攣った笑みだ。


「ッはは、やれば、やれば出来るもんだな!」


「ンなのおかしいだろ滅茶苦茶やりやがって───」


「それをお前が言うか、ユヴォーシュ!」


 ぐ、と言葉に詰まる。確かに俺も他人のことを言えた義理ではないが、いやそれにしても───


 考えている間にも、ロジェスのバスタードソードは引き戻されている。こちらがここから魔剣を押し込んでも勢いを殺されてしまっている以上、当初想定していたように決着をつけることはできない。クソ、仕切り直しか!


 風を割って空間に裂け目を創るロジェスの一閃を、避けても反対面にロジェスが身を隠してしまう。一時的にしろそこで世界が途切れている手前、《光背》によるサーチも届かないから縁から乗り越えようとしてそこを狙われる。


 どこまでも厄介なのがロジェスの剣の冴えだ。、受ければ絶対に断ち切られるという印象があまりにも強すぎるが故に戦い方がひどく制限されてしまうのが辛い。


 《光背》やアルルイヤで受け太刀をしてもいいならそうしたい場面でも、長年愛用してきた俺のロングソードがカチ割られたトラウマや、大魔王マイゼスを《澱の天道》ごと両断した鮮やかさがまざまざと蘇ってそうする選択肢をとれない。それもこれもすべてを斬ることにかけている彼の想いの強さが成せる業、それさえなければ───


 ……待てよ?


 因縁の相手、一度は完敗した相手ですっかり萎縮してしまっていたらしい。俺はひとつ見落としていたことがあると気づいた。


 剣と剣でぶつかり合うぶんには、意地の張り合いで彼に勝てる気はしない。魔剣だろうと何だろうとやっぱり斬り分けられるだろうという予感はあっても、じゃあじゃないなら?


 さっきから苦戦させられている新技、空間を斬り分ける黒い断撃はだろう。


 あんなものはただの余波に過ぎず、ならば恐れるに足りない。


 俺の存在する世界が裂けても、俺は俺のままに在ってやるという決意を剣に乗せて。


 魔剣アルルイヤが、黒の空割れと真っ向からカチ合った。


「はッ───」


 いけるという確信はあれど極度の緊張で腕が震える。流れる汗が鬱陶しい。自分自身を鼓舞するために口の端だけで笑うと、ロジェスは吼える。


「だからお前こそってんだ、ユヴォーシュ───あっさり越えてきやがって!」


「それをこそ望んでんだろ、ロジェス!」


 文句つけてくる割りには、こいつは、


 笑ってんだから。

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