393話 衆縁断絶その5
大通りを何軒も向こうまでぶっ飛ぶガンゴランゼ。立ち上がろうともがいて、そして倒れる。死んじゃいないが、これで起き上がってくることもないだろう。
決着だ。
彼が最後の眷属であり、ついに倒れ伏した。もう残っていない。同時に《暁に吼えるもの》の招来も阻止され、完全勝利を収めたわけだが、それはつまり。
《人界》の大神ヤヌルヴィス=ラーミラトリーの光臨を妨げるものが、ついに何もなくなったことを意味する。
俺とヒウィラ、二人の《真なる異端》を裁きに───やって来ないな?
ガンゴランゼが力尽きて、いつ来るか、もう来るかと身構えていたのに一向に現れる気配がない。妖精王、《幽林》のウーリーシェンが語ったところでは光臨は直ぐという話だった。俺たちは既に神のしるしがないままに好き勝手《信業》を行使しているから、光臨条件はとっくに満たしていて、にも関わらず大神の真体が構築される先触れはない。
さては未だ眷属が残っているのか。大眷属以外の取りこぼしについては考えなくてもいいだろう───支えるには力量が足らない。幾人か顔を合わせていない顔馴染みたちがいるが、ヒウィラの方に行っていた可能性もある。合流して確認すべきか、そう考えて空を仰いだところに、
「神は割って入れない。別件があるからな」
───答えの方からわざわざ出向いてきた。
聞き覚えのある声に振り向く。と同時に、鞘に収めていた魔剣に手を伸ばした。元はと言えば、この魔剣を求めたのだって彼へのリベンジマッチを期してのことだ。今こそ必要となる時のはず───なのに、どうしてか抜くのが恐ろしい。
魔剣アルルイヤを手に入れ、その真の力とは何かを掴みさえした。己の《信業》を研ぎ澄ませ、《光背》のみならず《火焔光背》や魂の
それほどまでに剣呑な気配を纏って、聖究騎士の一角、《割断》のロジェスがバスタードソード片手に佇んでいた。
「よう、ユヴォーシュ。こうして話すのは久しぶりか」
「……大魔王の一件以来、か。《人柱臥処》ではすれ違ったくらいだったからな」
そのときの彼は《年輪》のヴェネロンにしてやられて倒れていた。俺が言っているのがいつのことなのか一拍遅れて理解したロジェスが、口の端だけで、ふ、と笑う。そこに恥や怒りや自嘲の感情は乗っていない。いいや、如何なる感情も乗っていない。
どうでもいいけれど何か反応しておくか、そういう相槌のような笑い。
底知れぬ“何か”を含んだ、徹底して冷たい応答だ。───これから殺す相手に手向ける献花代わり。
彼は俺を殺す気でいる。
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