391話 衆縁断絶その3
断罪の刃が降り注ぐ。俺の肉体が寸刻みに細切れにされていく───痛みはある。
けれどそれを俯瞰する俺の魂は、もっと純粋な感情によってのみ駆動する。
───負けてたまるか、と。
「お前にだって、負けてたまるか───!」
庇った俺の血がブチ撒けられて彼女は真っ赤に染まっているが、それでもガンゴランゼの《信業》による刃の雨は届いていない。彼女は守り果せた。
別に惚れたわけでもないし、味方だったことも一度たりともない。名前すら知らないけれど、死なせたら俺の負けだと思ってしまったんだ。そんな意地を張ったって何の価値もないはずなのに、不思議と魂はやけに元気。
だからまだ戦える。戦って勝てる。
「殺せたと、思ったか───!?」
《顕雷》が肉体を繋いでいく。最初に俺を人形扱いしたのは《暁に吼えるもの《おまえら》》なんだ。だったら俺が乱雑に扱ったって構いやしないだろう。動けばいいと
《火焔光背》と魔剣の合わせ技、黒炎の刃を振り回して雄叫び上げる俺に、少女眷属たちがたじろぐ。ガンゴランゼは忌々しげに《發陽眼》を細めて「……化物め」と吐き捨てると、すぐに畳みかけてくる。
未だ続く天上の大輪花に照らされて、
◇◇◇
「───何だよ」
彼はそれを見ていた。
頭上、ヒウィラが《暁に吼えるもの》の大魔法陣を粉砕せんと激情の花火を連発しているのには目もくれない。彼女からも感じるものはなくはないが、今の彼の視線を独り占めするのはやはりユヴォーシュ・ウクルメンシル。
ずっと待ち焦がれていたのだ。あの日、この場所で、我慢をすると決めてから
こんな相手は初めてなのだ。これほど焦がれたのも、どころか待つと決めたのも。
不安はもちろんあった。願った通りに育ってくれるのか、彼以外の手で台無しになりはしないか、常に目を光らせ、できる範囲で接点を持つようにして、けれど手を出さないように時には我慢して、一体彼はどんな感情を抱いているのかすら最早分からない。
ユヴォーシュの奮戦を眺めながら、自分がどんな表情をしているのか。鏡が欲しかった、いいや要らない。あったとしても目を離したくない。
「そんな奴に手間どるなよ、さっさと決着つけてみせろ。それでこそだろうが」
呟くだけ野次も本心で、吊り上がる口の端も仮面ではない。
大ハシェント像の頭頂部にどっかりと座り込んで、ロジェス・ナルミエは嗤っていた。
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