390話 衆縁断絶その2
言葉と共に投げかけられたのは《顕雷》。
不可視の《信業》、その先触れは僅かな奔りだけ。それだって狙った場所に飛んでくるわけではないから、あくまで計れるのはタイミングのみだ。かつては見えずとも《光背》で受け止め防げた断絶が今は割って入ってくる。強化されている───誰に? もちろん、彼が言うところの神だろう。
《暁に吼えるもの》だろう。
悪を語る神だろう。
「あっさり宗旨替えしてんじゃねえよ、この───」
一撃で決めようと踏み込んだ俺は衝突した。何もないところに、いいや違う、見えないだけでここで分かたれているんだ。近づくなと、汚らわしいと、彼岸と此岸とに横たわる断絶。
フラつく頭を抱えて後方へ飛び退く。ひと呼吸も遅かったなら賽の目に斬り刻まれていたはずで、それは距離を取っても変わらない。《光背》でも緩衝にしかならない以上、一か所に留まってはいられない。俺は走り出し、
目前に現れた少女にも、ガンゴランゼと同じような燃える傷痕があるのに愕然とした。
そうだ、彼は何人も少女を連れて歩いていた。讃頌式《奇蹟》で《信業》を共有していた彼と彼女らは、その根幹で同じ純粋な感情を共有することによる相互の同一視を図っていた、というのはあの戦いの後のバスティによる解説だったか。意識のネットワークは結ばれていて、そこに《暁に吼えるもの》の意思を流し込んだら───いいや違う、問題はそこじゃない。
彼女らも全員、当時の俺はアルルイヤで斬っている。
心の深くまでを刺し貫く黒の魔剣。だから彼女にもガンゴランゼと同じ傷がついていて、こうして俺の前に立ちはだかって、こうして《信業》をぶつけてくる───
俺はそれに反応できてしまう。
ずっと《光背》で《絶滅》を受け止めていたから《火焔光背》への切り替えは間に合わない。姿勢から避けるのも間に合わない。とれる手はただ一つ。
「オオオオオオッ」
咆哮は言葉にならなかった。
綺麗な構えなどそこにはなく、ただ持っている剣を突き出すだけのぐちゃぐちゃの一刺。それでも手にしているのは《信業》を喰らう魔剣で、いち眷属の彼女と比べれば俺の身体能力は圧倒的に高い。不意さえつかれなければそれだけで、
たやすく殺傷せしめるのだ。
畜生。畜生!
何が腹立たしいって、彼女は捨て石だということだ。俺を追い込んで余裕を奪って、手加減できる余力がないタイミングで刺しちまって俺の内心はそれなりに乱れてる。その状況が作りたかっただけで、本命はその後に控えた残りの少女たちとガンゴランゼによる総攻撃。
分かっているのに、血を吹き出して倒れ込む彼女を見過ごせない。
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