389話 衆縁断絶その1
燃える黒剣でハバス・ラズを斬り払ったとき、彼方からの衝撃が音を吹き飛ばした。
都市上空に激情の花火が上がる。ヒウィラが彼女の仕事を果たしている一番分かりやすい証拠に、示せはしないが俺は安堵していた。
彼女が《真なる異端》に覚醒したため、天上の魔法陣の破壊を任せて単独で向かわせはしたが、心配していたことに変わりはない。隠れ潜んで都市政庁に向かっても絶対に眷属が立ち塞がるはずだから、傷つけられてはいないか、負けてはいないか、ついつい気にかけてしまっても責められはしないだろう?
無事でよかった。
心配するのは不可避とはいえ、それで俺の仕事を疎かにするわけにもいかない。彼女の負担を減らすには俺の奮闘が不可欠だからだ。こちら側で眷属を引きつけ、ハバス・ラズのような重要な眷属を解放することで敵の力を削ぐ。
どれ───それじゃあ、いっちょう派手に再挑戦してみるか。
「ふッッ───」
全開の《光背》が四方を満たす。突入直後に実施した走査では大眷属に阻まれて狭い範囲しか探れなかったが、これだけ減らせば。期待しての全力は確かに都市全域に拡散し隈なく探ることに成功した。だが、その結果は。
背筋に冷たいものが走る。
敵は戦法を変えてきた。なるほど強大な眷属たちの大半は失われていた。だから走査を阻むのは難しいが、ならば自由にやらせてやろう───と。
その間の隙を衝こう、と。
振るった剣は激しい火花を散らす。天上の華と対比を成すそれは、《信業》の産物。
アルルイヤで防ぐのが一瞬遅れていれば俺の脳の断面が衆目に晒されていた。そんな経験はいつぞや一回すれば十分だ。普通だったら脳を破壊されれば《信業》など満足に行使できるはずもなく、そのまま絶命する。西方の小都市ヴィゼンで喰らってもどうにかなったのは、あれは《信業》の主体がバスティにあったから。人形の頭が壊れても人形遣いが直せばいいだけという不愉快な理論あっての話で、今の俺が喰らえば───喰らっても死ぬ気はしないけれど、それでも痛いものは痛いんだ。喰らってたまるかよ!
なあそうだろ、
「ガンゴランゼッ───!」
「……大声を出すな。聞こえないだろ」
彼の瞳は燃えていた。だが、そんな小さな目印がなくとも、今のガンゴランゼ・ヴィーチャナが侵されているのは一目瞭然。
真奇坑エリオンで決着をつけたとき、俺は彼に二太刀入れた。初撃は正中線に沿って真っすぐの振り下ろし、次いで前頭部から輪切りにするような意趣返しの横薙ぎ。斬ったはしから癒したから傷痕は残っていないが、そのラインが、
───炎を上げている。彼の魂を供物として、硫黄色に。
冠のように、鬣のように、煌々と。
「神の声が届くんだ。俺に、俺にだけ。一度死んだからかもな。……その点でだけ、テメェに感謝してやるよ。ユヴォーシュ・ウクルメンシル」
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