386話 都市壊乱その9
それでも、強敵は現れる。
───ジグレード・バッデンヴァイト。俺に腕試しを挑んできた探窟家の大剣遣い。彼女との出会いはそれこそ今も鮮やかに思い出せる。ディゴール最強を夢見て挑んできた彼女が、本当は出身の孤児院のためにできることを探していた不器用な女性だと知っている。だからこそ痛ましい───そんな眼をして命じられるがままの剣を振り回すようなヤツじゃなかっただろ!
大剣は重い。アルルイヤで受け止めても腕の骨が軋むようで、初対面の《光背》で受け止められた一合とはまるっきり別物だ。
当然だろう、中身が別なんだから!
「そんな強さかよ、お前が欲しかったのは!」
分かってる、問わずとも違うということくらい。だから俺が止めるんだ。俺のせいで俺を倒すためだけの力なんて注ぎ込まれた皆を自由にしてやるのは俺の役割だろう。
幾度も交わる剣筋は凄まじい速度に達している。ただの大剣で《真なる遺物》であるところのアルルイヤを受け止められるはずもない、得物まで変貌させられている。斬られればただ痛いでは済まされないだろう───けれど、そこに飛び込むしかない!
俺の肩口に大剣が振り下ろされ、突き立つと同時に血しぶきが彼女の無表情に跳ねた。
「ッッ───」
大剣が炎を纏う。アルルイヤが帯びる黒炎とは色違い、硫黄が燃えるのと同色だ。刃そのものは肉体強化で受け止めてみせたが、傷口から毒のように《暁に吼えるもの》の想念が流し込まれてくる。これを受け入れればまた化身にされるのか、それとも操り人形の眷属止まりか、どちらにせよ碌なことにはならない。防ぐために《光背》を持ち出せば斬り返せない───だから。
侵してくる毒に別の《信業》をぶつけるまで。精神を狂わせてくるなら、健在な魂でねじ伏せる!
「何故───」
ジグレードの口が動く。彼女の声で、彼女ならざる意思を代弁させられている。止めろ、そんな言葉を聞きたいんじゃない!
黙らせる前にどうしても一言だけ吐き出されるのは、間に合わなかった。
「何故、逆らうんだ。教え導いてくれるというのに!」
「ンなもん───」
燃える剣を真っすぐ振り下ろす。肉体は傷つけず、悪性だけを切除して解放する一太刀。力が抜けたジグレードの膝が落ちると同時に、俺の鎖骨をカチ割って食い込んでいた大剣の炎も燃え尽きた。それで決着したのだと分かっても、答えを返す。
「最初っからずっと、俺は俺自身を背負ってんだ。恩着せがましくおっ被せて来るんじゃねえての」
ぐったりと寝そべるジグレードを、せめてと思って気楽な体勢にしてやる。まだ敵は山ほど残っているから、俺は行くよ。
───元気で。
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