384話 都市壊乱その7
ぱち、ぱち、ぱち、と控えめな拍手が響く。
口の端についた血液を袖で荒っぽく拭い、睨みつけたヒウィラを称賛するのは年若い女性。
瞳の燃え盛りようの強さから、あの子もどうせユヴォーシュの関係者だろうと当たりをつける。全く次から次へと、私以外にもあちこち手を出し過ぎだと憤慨するがそういう
文句の一つでも言ってやりたいが、彼はここにはいない。いるのは少女の眷属ばかりなり。
「貴方もどうせ邪魔をするのでしょう? でしたらそんなところで手を叩いていないで、かかってきたらどうです?」
「いえ、私はそのつもりはないんです。荒事には向かない性質なもので」
「……驚いた。てっきり喋れなくなるまで精神を掌握されているのかと思ったら、もっとさらに深く───喋れるくらいまで精神を汚染されているの?」
ここに至るまでに目撃した眷属たちは自我も塗り潰され、《暁に吼えるもの》によって植え付けられた本能に従っている人型の獣のような有様のものばかりだった。それが呼びかけてみたら理知的に返事をするものだから、否応なしに警戒度は引き上げられる。
より高位の眷属。雑な処置で使い捨てるのではなく、自我を残してより根深く染め上げられた特製のそれ。
その性能はより洗練され研ぎ澄まされているはずだ。力任せ数頼りの雑兵ではなく、一体一体が中継器としての役割を果たせるような個体だろうに───どうしてこれほど圧を感じないのか?
「私はただ縁の強さでそうなっただけの眷属です。ですから警戒する必要はありません。こうして出て来たのはただ話がしたかっただけですから」
「付き合う義理はありませんね」
ユヴォーシュが今も戦っている。響く音は彼が眷属たちを打ち払い、焼き尽くし、解き放っている証。それが止むより先に彼女の仕事を果たして、一刻も早く彼の所に向かいたいのだ。
翳すと手に敵意の棘が造形される。非戦闘ならば好都合、さっさと蹴散らして天上の陣を───そう考えていた彼女を、しかし彼女の口から発せられた次の言葉が止めた。
「ボク相手でもかい?」
「───バス、ティ……!」
止まってしまった。声音も口調も全く差異のない彼女の言葉に、何が何だか分からないまま別れることになったからヒウィラは止まってしまう。納得できていない、ユヴォーシュも何があったのか言葉を濁すばかりで納得できるはずがない。彼女が《暁に吼えるもの》の側の存在であるなら、神体を破壊してもこうして話せる術があってもおかしくはないだろう。残留思念か、伝言か、あるいは本当に精神は生き延びていたのか。
同源であるという事実を本質的に理解していなかったヒウィラにとっては、もう会う機会は訪れないだろうと思っていた旧縁に再会したような気分。とても敵意を保持できるはずもなく、棘はあっさりと虚空に溶けて消えた。
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