382話 都市壊乱その5

 眷属たちを保護しようとする《火焔光背》を魔剣アルルイヤの供物とする。黒く染め上げられた炎は精神に作用し、魂にまで手を伸ばさんとする《暁に吼えるもの》の汚染魔術のみを焼き払う目算だ。


 当然、《火焔光背》を焼かれた俺にもその痛みは降りかかる。ばかりでなく、魔剣に込められたジーブルの呪い、そして《信業》を行使している反動と、三重苦にどうやら知らず叫んでいたらしい。口を閉じ、歯を食いしばってもどうにもならなかった。


 すべて非肉体的ダメージだ。都市住民の身体を傷つけたくなかっただけの俺の我儘、その代償が俺を苛む。お前たちを殴る俺の心も痛いんだというのが比喩ではなく事実になってしまうとは。


「ぐうううああああああッ!!」


 そんな思考が出来るようになったのは慣れてからで、直後の俺は何も考えられないほど悶絶していた。それこそ剣で物理的に刺されたよりも苦しんで、意識は千々に引き裂かれるような感覚。それをやり過ごすと、今度は灼ける熱が襲い掛かってくる。《火焔光背》の燃焼作用は現実のものではなく、あくまで強制的に意思を発散させているのを“燃える”ように認識させているだけなのだがとても信じられないくらい熱い、熱い、熱い!


 耐え切れず魔剣を抜く。ギ、と石畳を擦る音を立ててアルルイヤが抜かれると、あれほど燃え盛っていた黒炎が嘘のように消失した。俺はそのまま膝をついてしまう───腑抜けるな、そんな余裕ないだろ! 急いで成否を確認しろってんだ!


 自分に喝を入れて立ち上がって、あたりにばたばたと倒れている住民を窺う。胸が上下しているから死んではいない、後は───


「よし、よし……! やった!」


 狙い通り。住民たちから眷属性は失われている。どうやって確認したかって? 閉じてる瞼をこじ開けて見てみたのさ。どいつもこいつも、あの薄気味悪い燃える黄色がすっかり落ちてる!


 それ以外にも、《光背》でざっと走査して気配が感じられないもの確認して、これでようやく一安心。どうやれば眷属を辞めさせられるかが掴めたから、ここから先は数を熟すだけの、だけ、の───


「───オオオオオオオオオオオ───」


「……そう、だったな……。街ひとつよりも多いんだった……」


 同じ《暁に吼えるもの》の眷属をやっていたはずの同朋が眷属そうでなくなった。それを敏感に察知した残り全員が一斉に雄叫びを上げる。俺の仕業だってのは考えなくても分かろうものだから、咆哮にこもる思いもひとしおだ。


 よくも、よくも、裏切り者、裏切り者───


 もう容赦はしない、殺してやると叫んでいる。


「いいぜ、来いよ。こっちに来い、俺んところに一直線に来い。そうすれば───」


 ヒウィラがこれからやる仕事が、幾ばくかは楽になるだろうからな。


 俺は魔剣を構える。

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