381話 都市壊乱その4
「───さて、と」
ヒウィラの選択からしばし後。俺は一人、扉の前に佇んでいた。
彼女がしるしを外し、戦力として計上できるようになったのだから活かさない手はない。とはいえ彼女と眷属たちをぶつけ合わせれば、圧倒的な破壊力で粉砕するくらいしか道はない。前線都市ディゴールごと、そこに集った操り人形ごと、跡形もなく消し飛ばしていいなら彼女が適任だろうが、そうもいかない。
だから俺がやる。眷属たちを操る
彼女が恙なく任を果たせるように、俺はこちらに全力で集中する。そして、集中させる。
───《暁に吼えるもの》の眷属たちを。
この扉一枚先はディゴールの街中であり、眷属たちがウヨウヨしている混沌の渦中だ。飛び出せば引き返せない。眷属たちも二度は撤退を許しはしないだろうから、走り出したが最後どちらかが尽きるまで終わらない戦いが幕を開ける。
合図は俺に一任されている。ちゃんとあちらの彼女に伝わらないといけないから、ならば精々ド派手に行こう。
俺は魔剣を構え、眷属たちを守るように《火焔光背》を展開する。
瞬間的に炎上する大気は誰も害することはない。当然だ、この《信業》は眷属たちを傷つけようとする意思を焼き払うもの。この場にそんなものは存在しないから、一瞬の熱を帯びるだけ。これは下準備だからそれでいい。
ここで肝要なのは、『《火焔光背》が守るのは眷属を眷属たらしめる汚染部位のみであって、ディゴールの市民の心には不干渉である』こと。効果の及ぶ範囲を慎重に定めなければ、取り返しのつかないことになる。上手くいかなかった場合も想定しなければならないが、それにしたって最善は尽くすべきだろう。
人の命すら懸かっている鉄火場なんだ。
眷属たちの困惑が《火焔光背》越しに伝わってくる。自分たちを狙うワケではない《信業》の行使の意味を掴みあぐねているんだろう。すぐに看破される。俺の目的も、どこにいるかも。だからその前に───
「よう、正直俺は見覚えもないんだが、久しぶりらしいなお前ら!」
荒っぽく扉を蹴破って表通りに一歩踏み出す。声と音に反応して通りにひしめいていた眷属たちの首が一糸乱れない動きでぐるりとこちらを向くさまは不気味だが、それ以上何かをするより早く、
───イメージしろ。俺の足元に、もう一人俺が横たわっていると。
その俺もまた俺であり、《火焔光背》を行使する者。《信業》を憎悪し貪る魔剣アルルイヤで貫けば、その黒は《火焔光背》にまで及ぶのは今までの経験から理解している。
そう、これは初めての挑戦だ。似たようなことは《光背》でやってはいても、《火焔光背》で試したことはなかった。《光背》でやったときは酸の池に飛び込んだみたいに全身焼け爛れたが、今回はどうなるのか。どうしたって自傷を起点とする巻き添えだから、絶対に俺はこの痛みから逃れられない。
けれど、俺の望みを通すにはこれしかない。
「そんで、再会して早々だが───さよならだ!」
俺の足下に寝っ転がる俺のイメージに、真っすぐ魔剣アルルイヤを突き立てる。
前線都市ディゴールの一角を、黒炎が嘗め尽くした。
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