379話 都市壊乱その2
「都市ひとつを飲み込む混乱を、さも一個人がやったように語る口ぶり。そんな尋常ならざる天賦、小神相当者ですら持ち合わせませんよ、ユヴォーシュ様」
「そもそも君からして、聖究騎士にも匹敵する───どころか時には上回るようなけた違いの実力者。そのバックに存在するものは、まあ大神相当と考えるのが自然というものだ」
「私やディレヒトは、お前にしるしがないことに最初から気づいていた。にも関わらず裁かれないから何かカラクリがあると見てヘタに刺激しないよう観察していたまで。やっと尻尾を見せたな、というのが正直な感想だ」
思っていたより大仰な話にはなったが、と絞めるシナンシスに、俺は開いた口が塞がらなかった。何だよ、皆そんな風に見てて、気付いてないのは俺だけだったのかよ。
ヒウィラも責める雰囲気を引っ込めて、一緒になって呆れている。彼女はやれやれと言わないのが不思議なくらいの表情で、
「ずっと思いつめた顔をしていれば言われなくても伝わります。ユヴォーシュ、貴方に隠し事は無理ですよ」
「……はい……」
「どうせ『《真なる異端》になった自分はいつか大神に裁かれて死ぬんだ、けどどう伝えればいいか分からないから黙っていよう』とかそんなところでしょう。まったく、さっさと言えばそれで済むのに、隠そうとするからこうして穿る手間がかかるんです」
彼女がついと視線を向けたのは
彼を通して彼女が見ているのは───髑髏城の戦いのときの
「私が先ほどの一戦で、貴方の移動速度に追いつけなかったのもしるしが原因でしょう。あのとき、マイゼスに致命傷を与えたロジェスの渾身の一太刀。それまであしらわれるばかりだった彼が大魔王を超えられたのはしるしを削ぎ落したから」
「───今更黙っているのも馬鹿馬鹿しいから率直に話すが、その通りだよ
しるしとは魂と心の間に刻まれるもの。極めて純粋な渇望結晶たる魂を《九界》に向けて翻意したものが心だとすれば、その変換部分に噛んでいる。しるしが心に深く根を張っていれば取り払ったときに崩壊するのも無理からぬことではある。
思うに、聖究騎士の素質とはもともと自我に対する魂の比率が多い───分かりやすく言えば我の強い奴らなのではないだろうか。大事なところにがっちりと己があるから、しるしを引っぺがしても致命傷にならない。魂の主張の激しい、神よりも優先すべきものを識ってしまっている半端者。
まあ、魂のなかったかつての俺も、変換せずに魂で押し通している今の俺も、彼らのことをそんな風に言える資格はないのだが。
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