377話 都市濁乱その11
俺は思うがまま言葉を紡ぐ。とりとめはない、主観的で感覚的な言葉の数々。にもかかわらず魔術師たちはそんな茫洋とした言葉から何かを見出してくる。
「縁による感染……という話だったよな。強い存在感を放つ個体は、それ相応の力を注ぎ込まれていると見るべきだ。経路は太くなければならない」
「問題はどちら側からの視点なのか、ですが……。これだけの才を持つ魔術師であれば、ユヴォーシュ様から見て印象深い人と、ユヴォーシュ様に対して抱く感情の大きさと、両方とも利用していると見るべきでしょうか」
「しるしを悪用しているというなら、強い個体を
「……えっと、つまり?」
やっぱり頭いいんだな、という感想しか浮かばない。カストラスの、ムールギャゼットの、そしてシナンシスの分析を理解するには俺の思考回路は単純に過ぎる。もうちょっと噛み砕いてもらわないと。
カストラスはやれやれ、と言いたげな顔をすると、
「つまり君と関わりの深い人たちがとりわけ強く染められているはずだ、という話だよ。君が顔と名前が一致するような間柄、あるいは君の顔と名前が一致するような人々。ちょっと前に《冥窟》から《真龍》を引っ張り出したんだって? そのときに名を売ったのが仇になったね」
「……くそっ、売りたくて売ってたわけじゃない!」
「知ってるさ。けれどそんなことを言っても始まらない。西で一緒に旅をしていたクァリミンみたいな、これまでにコナをかけた美人さんたちが全員で君を刺しに来るんだ。実に見物だね」
「やめろその言い方!」
ヒウィラの視線が既に刺さりそうなんだから!
「大量の水を流すには相応に太い水路が必要となる。風聞でしか知らないような連中よりは名前と顔が一致しているディゴールの住民の方が
「……分かってるよ」
強い眷属はおそらく、以前の俺なんだ。讃頌式《奇蹟》で異能を共有し、反動を考慮に入れる必要もないで好き放題に暴れられる操り人形。あのころの無自覚な俺でさえ魔王相当者とやり合えるほどだったんだから、直で《暁に吼えるもの》の意をくみ取り動ける眷属たちは全力で俺を止めにかかるだろう。
「そういう奴らは、天空の魔法陣を壊せば止まるのか?」
「さあな」
と肩を聳やかすのはシナンシス。言い訳をするように、
「私たちもどういう儀式が執り行われているのか正確には掴んでいないんだ。あの魔法陣は支配者の意思を伝える経由のためか? それとも流し込むためのものか? あるいはまったく別のもので、そもそも操っているのとは別の可能性だってある。分かるのは敵が魔法陣を重要視しているということだけ。破壊して止まるかは五分と五分だ」
「だよな……」
それでも破壊しない訳にはいかない。元に戻るならそれでよし、そうでなくても残しておく選択肢はない。
「まず魔法陣を壊す、それで戻らなければ諦めてどうにか戻す手段を探すさ。皆はこのまま隠れててくれ、俺とヒウィラで行ってくるから───」
「いいえ」
そう言えばずっと押し黙っていたヒウィラがきっぱりと否定するので、俺はビックリしてしまった。今更拒否されるなんてどういう心境だ、まさかさっきのカストラスの揶揄を真に受けたんじゃないだろうな、なんて慌てていると、
「このまま行かせはしません。ユヴォーシュ、貴方、私に黙っていることがあるでしょう」
瞳の光はあの夜───《妖圏》で彼女を怒らせたときに宿っていた光とそっくりだ。
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