374話 都市濁乱その8

 ……いつかこんなことがあったな、と思い返す。あれは《魔界》インスラは髑髏城グンスタリオ、その内部に違法建築された反抗勢力の隠れ家だった。あんまり雰囲気が似通っていたものだから、フラフラする頭が勝手に繋げてしまっていた。


 ムールギャゼットがいくつもの家屋、扉、曲がりくねった道と時には縦穴すら降りて辿り着いた先は、そういう場所だった。


 今更このメンツが俺っぽっちの命を獲りに来ることもないだろうと、俺は《光背》を解いている。自信過剰なようだが、俺はこの街の事態を打開できるおよそ唯一の鍵だ。それを引き込んで殺そうとするのは自殺行為以外の何物でもなく、そこまで狂ってるなら頼った俺が馬鹿だったってだけの話でいい。


 それぐらい奇妙奇天烈なメンバーが集まった秘密会合。


 悪神によって造り出され、その手を逃れた《真なる異端》のこの俺、ユヴォーシュ・ウクルメンシル。


 魔族の姫君……の影武者、魔王特製の刺客であったヒウィラ。


 対して迎えたのは。


 今まで魔術を操ってディゴールで暗躍してきた異端者───ムールギャゼット。初めて生身の顔を拝んだぜ。


 《人界》を支える一柱。占神にして自殺志願者───シナンシス。


 異端の魔術師、それより何より原理不明の不死者───カストラス。


 それともう一人、恰幅のいい男性は───あれは誰だ? 見覚えがあるような気がするけど、ちょっと思い出せない。ここにいるってことはただのおっさんってことはないだろ。……誰だ?


「そちらの方は?」


 よくやったヒウィラ。素晴らしいぞヒウィラ。俺が聞きたいことを代わりによくぞ聞いてくれた。


「私はゴロシェザ。俗にディゴールの三巨頭とか言われていたが、まあ……些末な話だろう」


 名乗られてようやく思い出した。確かに、《真龍アセアリオ》が《魔界》アディケードへの《経》を開いて、そこから魔王アムラが使者を送り込んできたとき───つまりヒウィラと出会う契機になった一連の事件のとき、俺はニーオに押し付けられて都市付き騎士代行なんて役職をやった瞬間があった。あれで会議やら何やらに引っ張りだこになって、その時に見かけたんだ。


 都市政庁を回す《蟒蛇》のオーデュロ、探窟家や傭兵といった都市の武力を統率する《絶地英傑》のハバス・ラズ。彼女と彼と均衡を成すもう一角は、都市経済を司る商会の元締めらしい。


 さっき走り回った感触では、この街の人間は例外なく眷属と化している。それもこれもアセアリオのせいで、俺がド派手にあの空飛ぶトカゲを撃ち墜としたせいで、この街で俺を知らない人間はいないのだ。俺は覚えていなかったが顔を合わせたこともあるような彼は、間違いなく汚染するに足る縁が結ばれているはずで。


 にも関わらずここにいるってことは───こいつ、異端者だったのか! いち都市を牛耳る人間が、恐れ知らずなことをしてやがる!

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