373話 都市濁乱その7
彼(だか彼女だか実は分かっちゃいないのだが)なら、神のしるしを持たない可能性がそれなりに高い。何せ自ら異端を名乗るような輩だ。そして万一にもそうであるならば、おそらく俺の縁者であっても《暁に吼えるもの》の汚染を受けていないんじゃないか、と思ったのだ。
ケルヌンノスによる儀式は、俺が結んだ縁を辿って、この世界の神を信じる基盤である神のしるしに干渉することによる洗脳だ。だからこそ、カヴラウ王朝による実験でしるし薄れたヒウィラが操られていない理由もそこにある。聖究騎士たちもしるしが比較的薄い連中と聞き及んでいるから、俺の前に現れたディレヒトはしゃっきりしていたじゃないか。
だから───異端なら、あるいは。
「ヒウィラ、どっちだッ!」
「もっと戻って、三つ前の角を左へ!」
「ああクソ、邪魔するな───オラァ!」
一瞬足を止めた瞬間に津波のように押し寄せる眷属たち。それをこうやって蹴散らすのも、いつか限界が訪れる。だから急げ、逃がすな、ムールギャゼットだってこんな街をウロチョロするのはおっかないに決まってる。俺が大暴れして騒ぎを起こしたから出て来たはず、この期を掴めなければ接触は困難を極める。
「ムールギャゼット! お前か!?」
「ええ、ええ、貴方なら気付いてもらえると信じていました」
「気付いたのは俺じゃなく彼女だけどな! まあ何でもいい、顔を出したってことは何かあんだろ、さっさと話せッ!」
相も変わらず魔術的に作り出した影だが、そうじゃなかったらヒウィラが見つけることも出来なかったはずだ。だから好都合、何が良い方向に転がるか分かったもんじゃないな、って感慨は後回し。
「こんな場所で話など出来るものではないでしょう!」
「そりゃ同感。ならどこか案内してくれるかよ、なあ!」
鉄火場のさ中、自然と言葉は荒っぽくなる。かなり勢いで吐いた言葉だから期待していなかったのだが、影のムールギャゼットはその言葉に一つ頷くと、
「いいでしょう、こちらへ! ……というか、案内しますから私も運んでいただけると幸いです、《光背》のユヴォーシュ様!」
「そりゃあまあ幻影だって俺の方が速いだろうけどよ、遠慮ってもんはねぇのかお前は!」
文句を言いつつも足を止める暇はないから《光背》で包み込む。ヒウィラが眷属を蹴散らしてくれるのを背に感じつつ、これでよし。
「そんでどこ行きゃいいんだ、さっさと言えッ」
「あちらで御座います、お早く!」
俺は走り出す。眷属を撒いてムールギャゼットの根城に逃げ込まないと。
途中ヒウィラが何やら俺の知らない《信業》を紡ぎ出してから、ぱったりと追撃が止んだのは何だったのだろう。後で聞くことが増えたなと考えつつ、かなり限界が近かった俺は迂回を抑えて直線でムールギャゼットの指示通り疾駆する。
思ったよりも少しばかり……実のところかなり甘かった見通しはあっけなく崩壊して、ここで一区切り。仕切り直して今度こそ殲滅してやるからな、畜生どもめ。
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