371話 都市濁乱その5
まあそれが何だって話だが。
どうせいつかは終わる命、やりたいようにやってそれがちょっと早まるくらいは覚悟の上だ。精一杯やって締めに笑っていられれば俺はそれでいい。
今考慮すべきはそこじゃなく、戦況が読めない一点に尽きる。
当初の予定では突入して早い段階でディゴールの状況と、眷属たちの配置を読み切る予定だった。けれど敵にも《光背》の性能は知られていたから、きっちり対策を打たれていた。だから足で稼ぐ方向にシフトしたが、今度はヒウィラのスペックが追いついていなかったのが、誤算。
悠長にやっている余裕は、実はどちらにもない。
街を駆け抜け、魔剣を鞘に収めてばったばったと低級の眷属たち───いつか俺がすれ違ったくらいの縁の、もとはただの《人界》の民草たち───を打ち据えて蹴散らしていても分かる。時間がない。
もともと、俺───ユヴォーシュ・ウクルメンシルという器を用意してそこにありったけ注ぎ込むはずだった力と意思だ。そんなものを縁を結んだだけの一般人に注入すれば、どう頑張ったって早晩破綻する。分散して負荷軽減できているから何とか保っているだけで、俺の見立てでは残り数日も眷属のままで居ればそれだけで自壊するくらいの進行度。
そうして眷属たちが数を減らしていけば《九界》簒奪の計画など到底遂行不可能だ。《暁に吼えるもの》もそんなことは承知の上、にも関わらず大胆に動員して自己招来を目論んでいるのは悪足掻きだけじゃない。
つまり勝ちの目はまだ残されているのだろう。残された数日で逆転できる目算があるからこそ、こんな二度とないような大攻勢を仕掛けていると見るべきだ。
いつまでが猶予かは分からないが、猶予があまり残されていないのは、だから俺たちも同じ。自滅する前に成就する、その前に俺たちの手で叩き潰す必要があるから、できれば一網打尽に眷属の数と大まかな位置だけでも掴みたかったのに。
「これではキリがありませんよ、ユヴォーシュっ!」
敵意を棘状に放つヒウィラの言う通り、ちまちま削ってたんじゃ割りにあわない。
……これは多分、今まで会ってきたあらゆる《信業遣い》、《顕業者》、《奇術師》その他に怒られると思うから白状するわけにはいかないんだけれど。
俺はずっと自力ではなかったから、バスティに供給される《暁に吼えるもの》の力を借りていただけだから知らなかったと言い訳させてほしいんだけれど。
《信業》って、使うとこんなにも───疲れるものだったんだな。
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