370話 都市濁乱その4

 かつて苦戦させられた《点滅》も、言ってしまえば業。俺にできる身の丈を知り、魔剣の真価を知り、俺の代わりに面制圧攻撃を加えられるヒウィラが傍らにいるんだ。


 前座としちゃあ楽しめたぜ。眷属として精神汚染されたままってのは同情するが、もとはと言えばお前の方から首を突っ込んできたんだからおあいこってもんだろう。わざわざ《龍界》まで追っかけてって治してやる義理はないな。


 それよりも、この街だ!


真っ二つになって墜落してくる残骸を躱してから、ありったけ力を溜めて《光背》を解き放つ。どこにどれくらい眷属がいるか確かめるための一発───だったのだが、瞬く間にディゴールを走査するはずの《光背》が何かに激突して堰き止められる。


「ぐッ───!?」


 柱が立ち並んでいるようなものだ。そんななかで伸びをしようと思えばどこかにぶつかって広げられない。《光背》にとって、つまり俺にとって害のあるを配置することで食い止める───言うだけなら簡単だが、よっぽどの代物だぞ!? しかもそんな眷属ものが、感覚的にいくつもある。体感的に今まさに下したアセアリオと同格かそれ以上。


 かつて見えた敵だからどうにか片付けられただけで、そんなのが大挙して押し寄せれば手に負えない。ましてやヒウィラを守りつつではジリ貧だ。


 ここは一旦、動くことにしよう。


「掴まってろ───って必要はないか、《光背》だもんな! 行くぞ!」


 ちょっとやそっとの視覚強化なら置き去りにする速度で駆け抜ける。《光背》による浮遊ではなく俺自身の踏み込みによるもので、展開しっぱなしの《光背》は空気抵抗を受けないためと、ヒウィラを守りながら一緒に移動するため。


 こうすれば俺は移動に専念できるからヒウィラに索敵を済ませてもらえる、そう考えたのだが───


「……ゆ、ユヴォーシュ。早過ぎてついていけません。何も見え……ない」


「マジか!」


 考えてみればその通り、のだ。


 ヒウィラは偏りはあるものの《信業遣い》としては鍛えられている。出力的にも並みの神聖騎士よりは格上だろうが、それでも神のがまだ残っているのは十分な足枷となるのだ。魂の望むがままに世界を裂く異能を揮うならばは邪魔でしかないが、なくせば《真なる異端》として大神に裁かれる。


 《暁に吼えるもの》がその機構に割り込んで己を顕現させんとしている現状だからお目こぼしをされているだけで、決着がつけば俺だって例外じゃない。ああ言いはしたが、ヒウィラにクァリミンを紹介してやる機会は訪れまい。


 その時には俺がいないはずだから。


 大悪の化身スプリール・テメリアンスクがやったように大神を返り討ちにしてしまえば命だけは永らえるかも知れないが、それだって勝ち目があるとは思えない戦いの上で、勝てば今度こそ《人界》ヤヌルヴィス=ラーミラトリーが終わってしまう。もう一つの《人界》ジルモレティに助けを求めるにしたって、結局どこへ行っても俺が邪魔だ。


 ……なんだ、こうして整理してみると思ってたより詰んでるな、俺。

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