368話 都市濁乱その2
形はどうあれ予期していたことではあった。
《光背》は危なげなく間に合い、噛みつきと呼んでいいのか疑わしい規模の咬合が光球を挟み撃つ。
「前方、三ッ!」
大雑把な方向と、全開を十とした場合の威力。極限まで簡略化した指示でヒウィラの爆破が放たれたのと同時に、俺たちに噛みついたままで見通せる、洞窟のような喉の奥がカッと燃え盛り、
相殺の衝撃が光球を吹き飛ばし、俺は《光背》で強引に壁をブチ破って《転移紋》の間を脱する。
前線都市ディゴールの《転移紋》の間には一度だけ通してもらったことがある。都市政庁の建物が立ち並ぶ地域、そのド真ん中にある廟がそれだ。庁舎に囲まれた広場に転がり出ると、とんでもない光景が広がっていて愕然とする。
都市中心部たるそこに、巨体がある。
《転移紋》がある廟はそれほど小さな建物ではない、はずなのに犬小屋のように見える。《真龍》が首を突っ込んでいるから仕方のないことだ。むしろよくそれで崩れなかったと感心したいくらいで、事実すぐにそいつが首を振るえば倒壊した。
「アセアリオ……ッ!」
かつてディゴールが、魔族と相対するための前線都市ではなく、《冥窟》に潜る人のための探窟都市であったころ。当の《冥窟》を作り出して管理し、それを道として《人界》に侵攻せんとしていた《真龍》。それが今また、ディゴールに現れていた。
その瞳はやはり《發陽眼》。
───《暁に吼えるもの》の眷属にされている。
「そうだよな、確かに斬ったもんな、俺……!」
ディゴールを襲った《瞬く星》のアセアリオを俺は魔剣アルルイヤで斬った。《経》を通れない《真龍》が侵攻用に作った義体の如き龍体とはいえ、それを操り動かしていたのはアセアリオの意思、精神だ。それを傷つけたというのは、《暁に吼えるもの》にとってこの上ない
そうやって辿っていくのだ。
そうして付け入ったのだ。
俺が関わった人、傷つけた深さ、刻み込んだ縁がすべて牙を剥く。
お前の人生は毒であったと、お前に関わったからこうなっているのだと、突き付けてくる。
ディゴールの政庁街を慮ることなく吐き散らかされる炎を受け止めながら、俺は歯軋りする。
「───負けるか……!」
負けてたまるか。こんな呪いに足をとられて立ち止まってたまるか。
俺の人生を悪用しているのは奴らで、奴らが余計なことをしなければこんなことにはなっていないと主張し続ける。俺はこんなこと望んじゃいないんだ。それをさも俺のせいみたいに言ってくるクソ野郎に、吠え面かかせないと我慢できないだろ!
アセアリオの前肢を受け止め、アルルイヤで突き刺して縫い留める。
まさか俺が魔剣を手放すとは思っていなかったらしい《真龍》の顎下に潜り込んで、
「好き放題させて、たまるかァァァッ!!」
渾身のカチ上げ、喰らいやがれ!
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