366話 九界奪還その8

 ───新たな聖究騎士がその力を揮うのと、ほぼ同時刻。


 同じく《人界》ではあっても、ユヴォーシュの足跡が刻まれていない未踏の地。聖都イムマリヤから北方の彼方。


 ───機神都市ミオトヴェレン。


 存命の大神ヤヌルヴィス、その眷属たる九柱の小神を陽神と呼ぶ。機神ミオトもまた陽神であり、《神々の婚姻》による衝撃で存在すらあやふやになってしまった陰神たちと違って確固たる自我を保っている。


 そんな彼の名を冠するここミオトヴェレンは、決してただあやかっているわけではない。


 


 《人界》を取り巻きその形を保つ《大いなる輪》。機神ミオトと占神シナンシス以外の七柱の陽神たちはそこに、内側たる《人界》に関わってくることはない。


 シナンシスとミオトだけが留まり、未だ《人界》に大きな影響を与えている。


 シナンシスは己を殺せる者を探し求めていた。ではミオトは?


 単純だ。


 彼はこの地を───ひいては《人界》を守護するモノ。


 人の似姿すら捨て去って、天蓋の如き機械の躰と成りて日々の生活を見守る巨影こそが、機神ミオトである。かつて───一劫前、《大いなる輪》が廻るより以前、彼が人であったころの彼の故郷は今や彼の名を冠しているが、それでも彼の故郷に違いはない、と彼は考えている。それを守護するのは当然の定めであり、それを妨げるようであれば何人たりとも容赦するつもりはない、というのが機神ミオトの大原則だ。


 他の陽神が聖究騎士への叙任というかたちで自らの力を貸与しているのも意に介さず、自ら聖究騎士と呼べるか怪しい傀儡ガムラスを立てて己の力を行使している。機械の身体───妖精王ゼオラド・メーコピィの操る超々々巨大《石従》と比較してすら一回り巨きい躯体は、超常の域にある《信業》でもなければ維持できるはずもない。


 今まではずっと維持に徹してきた。彼が躯体を稼動させる必要がある敵など現れなかったから、蒸気によって機神都市ミオトヴェレンを温めるくらいしかすることはなかった。


 もう今までとは違う。状況は変動し、《人界》は、そして機神都市ミオトヴェレン彼の故郷は危機に晒されている。


 守るために動かねばならない。


 永き停滞を破って、機神ミオトが起動する。

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