361話 九界奪還その3
《人界》各所での同時多発的な騒乱から三日が経過した。
実態は一向に収拾がつく目途が立たず、むしろ悪化の一途をたどっていると言っていい。聖都の混乱はどうにかできたものの、地方各都市で発生している混乱はまだまだこれからだ。
とりわけ前線都市ディゴールの状況は最悪。どれくらい最悪かというと、まったく現状が把握できていないのである。こんなことは神歴886年の中でも数えるほどしかない。
具体的には二例───神歴ゼロ年、《大いなる輪》が廻り今の信庁が成立した直後と、神歴504年、《真なる異端》スプリール・テメリアンスクによる神殺し。後者は《人界》ラーミラトリー側で発生した案件だが、《神々の婚姻》で統合された《人界》ヤヌルヴィス側にも影響がなかったわけではない。
二つの《人界》が一つになった影響で、《人界》ヤヌルヴィス=ラーミラトリーは地図のレベルで変動した。聖都からさして遠くもない都市が遥か彼方に配され、二都市間に見も知らぬ都市が生えてきたりした、とされている。
無論そんな事実はどの書にも記されておらず、学術都市レグマの禁書庫を漁っても知り得ない。だが神聖騎士には古株も古株、神歴の始まりから観測し語り継ぐ神聖騎士が存在する。彼女からそういう秘すべき歴史について口伝を受けているのは、現在の信庁では神聖騎士筆頭のディレヒト、《人柱臥処》の守り手たるルーウィーシャニト、そして《契約》のンバスクのみである。
信庁が《人界》を掌握できていないという事実は、知る者を限るべき恥であり。
現状についても、後の世にあるがまま伝えるワケにはいかない最悪の事態である。
神聖騎士筆頭、《燈火》のディレヒトはそのため、ここ三日間でほとんど寝れていない。
本来ならばここまでのことはない。彼がおらずとも信庁と神聖騎士は回るようになっており、よほどの事態でなければ指揮を交代して休息をとれるのだ。それがこんなことになってしまっているのは、悪条件が重なってしまったから。
数百年に一度の最悪の事態に加えて、直前に聖究騎士ニーオリジェラ・シト・ウティナによる反逆があった。あれで信庁の底力というものは大幅に削がれており、こうして《人界》じゅうで同時多発する事件に対処しきれなくなっているというのが一つ。
そして《火起葬》のニーオと《年輪》のヴェネロンを喪っているところに追い打ちをかけるように、この期に乗じてか神聖騎士の中にも脱走者が出てしまったのである。
───聖究騎士の一角、《割断》のロジェス。
───長い昏睡状態にあったはずの、《絶滅》のガンゴランゼ。
二名の消息が全く不明なのだ。
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