354話 悪獣弑逆その4
まだケルヌンノスと《無明なるもの》につけられた傷だって完治してないってのに、立て続けに致命傷を叩きつけて来やがって。
這い出してみれば、どうやら俺が着弾したのはもう少し手前だったらしい。ほら、そこに抉り取られた地面の軌跡が示している。生身で喰らっていれば
とんでもない腕力。《真龍》───《瞬く星》のアセアリオの渾身の突撃よりも強く、そして速い。
「終わったろうがよ───もうお前らの計画はブッ壊したろうがよ! 往生際悪いぞ、大人しくくたばってやがれ!」
頼むから。
これ以上、俺たちの《
そんな悪行がなぜ許される? 強いからか? ならば、それ以上の力でねじ伏せるしかない。
「いいよ、分かったよ───今度こそキッチリぶっ殺してやるからかかって来やがれッ!」
崩れかかってくる天井を振り払って叫ぶ。とても届かないような距離でも叫ばずにはいられなかった。俺の改めての宣戦布告、《暁に吼えるもの》の全部に始末をつける決意表明。
どうやら届いていたらしい。
黒い残影で軌跡を描きながら、それが俺の目前に瞬間移動してきた。
のっぺりとしたヒトガタ。面貌は口も鼻も耳も何もなく、人ならば目があるであろう位置には二つ、揺らめく硫黄色の燐光。
ケルヌンノスの目から生えてきた時よりも腕が引き締まっている。全体的に俺と体格は変わらないぐらいで、四肢がやたらと長いのだ。
そこまで観察しながら振り下ろしたアルルイヤが、あっさりと躱されて愕然とする。───速すぎる!
反撃、再び軌跡を残しながら振るわれる鉤爪を防げたのはひとえに幸運の成せる業。当然、そんな有様で衝撃を殺せるはずもなく、俺は体勢を崩しながら後方へと吹き飛ばされ、
たのにどうして追いついてるんだクソッたれ!
吹き飛ぶ俺よりも速く移動する───人型をしていても走ってはいない、俺を打ち据えた体勢から腕が伸びて迫ったかと思えば、その腕が膨れ上がって人の形を成す。黒い軌跡だと思っていたものはこれか───標的まで一直線に体を伸長させるとは、あまつさえ自分の手から自分の身体を作り出すとは、正気の沙汰じゃない!
己というものが定まっていないからできることで、到底真似する気になれない。同じことをやってみろ、タイミングをミスって自己を分裂させてしまうか、あるいはブッ潰れて何も考えられない肉塊になるか、どちらかだ。
そうでなくっても、こうして何度も苛烈な攻撃を受けていたら、早晩グチャグチャになりそうではあるが。
「ええいクソ、変形すると分かれば、こっちだってやりようはあらァな───!」
どこから来るか分からないなら、どこから来てもいいように構えるまで。隙間ない《光背》の壁は悪獣を捉えると、超光速で彼方へと吹き飛ばす。お前もズタボロになりやがれ!
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