340話 悪性神話その6
「キミじゃなきゃダメだったんだよ、ユーヴィー」
囁く言葉は愛を告げているようなしっとりとした声音。表情だってそれっぽく見せているが、どうしたってその中心で燃える黄の瞳があらゆる印象をかっさらって塗りつぶす。
あの瞳はダメだ。淀みながら燃え盛り、およそ何物も映しはしない虚無の穴でしかない。俺を見ているようで見ていない、盲目に等しい悪の発露。
「キミは異端でなければならなかった。この《九界》の
「───それゆえに、お前には魂が宿らないよう細工を施した」
バスティの言葉を引き継いで放たれたそれは、致命的な決定打。
口の中がひりついて舌が思うように動かないのは、バスティに縛られているからじゃない。問いかけること自体が恐ろしいからだ。想像だにしない内容が飛び出して、思考から何から硬直しているから待ったをかけることも出来やしない。
魂が宿らないように細工した、って言ったか。つまりそれはアレか、俺には魂が宿っていないということで、───魂が、ない?
なら今ここで考え、混乱している俺は何なんだ?
……正直に告白すると納得できる話ではあるんだ。神のしるしとは個々の魂に刻まれるもので、魂なき者にしるしが刻まれないのも道理ではある。けれど道理というのなら、それこそ魂のない存在がこうして意識を宿していることこそ俺に魂が確と存在する証明ではないのか。
「……腑抜けって言いたいのか。回りくどい揶揄しやがって、もっと率直に───」
「言ってるだろ。繰り返させるなよ、がらんどうのユヴォーシュ。お前には魂は宿ってない」
「つまり心もない。知ってるかい、魂って《九界》の外側からやってくるんだよ。それが《九界》に入ってくるとき、グジアラ=ミスルクが魂に刻む通行証が神のしるしと呼ばれるものの正体だ」
「命と共に宿るべき魂が欠如していれば、そりゃあしるしもないってもんだ。ちゃんと育つよう安定した家庭を見繕い、信庁に気取られないよう魔術を施し、生まれ落ちてからは陰ながら見守り。全く手間がかかったぜ、この二十年ばかし」
「ずっと《枯界》で暇してたボクと、どっちが良かったんだろうねぇ」
「さあなあ、今となっちゃ分からず仕舞いだ。でも無事にここまで来れて何よりだよ、本当に」
「違いない」
二人仲良く談笑するさまに、俺は奥歯が砕けるかと思った。悔しくて悔しくてたまらない。俺の人生を何だと思ってるんだ。先天的異端で手間のかかる子供だったろうに、文句の一つも言わず
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