338話 悪性神話その4
「そこだよ。キミを先天的異端にする必要があったのは、
「スプリールの経験から、神のしるしなき者が《信業》を行使すると、即座に大神に感知されると分かった。だから分けたのさ」
「ボクと、ケルヌンノスと、キミに。即ち、力と、意思と、器に」
三つのうち、意思については分かりやすい。記憶喪失だったバスティと自覚のない俺が該当するはずもなく、ケルヌンノスだと一発で分かる。
残りは力と器。
「力が俺で、器はバスティ───か?」
「ブッブーっ、ハズレ! 正解はボクが力でキミが器だよ、ユーヴィー!」
「おかしいだろ、どうしてお前が力になるんだよ! 出会ってからこっち、戦うのは俺の役割だったじゃないか!」
「その戦うための力を授けたのは誰だい、ユーヴィー?」
咄嗟に言葉に詰まる。その間隙を縫ってバスティは更に迫る───真実へ。
「考えてご覧よ、ユーヴィー。愚かで可愛い、ボクのユーヴィー。まずは《真なる異端》について」
《真なる異端》。
まず異端とは何か。異端とは、神のしるしがない存在を括るもの……のはずだ。俺のように先天的にしるしがない、神を信じられないパターンと、魔術師が後天的に魔術でしるしを外す、神を信じないパターンとに分かれている。
そして《真なる異端》とは、ロジェスの言葉を借りるならば「《信業遣い》の異端者」である。神のしるしがないまま《信業》を行使すると、大神が光臨してその者を裁く。
けれども俺は、今まで散々《信業》を使ってきて、一度もそんな光景をお目にかかったことはない。
「《真なる異端》が出現すれば大神が光臨する。それは絶対の法則で、くぐり抜けることも誤魔化すこともできないからこうしてボクらが面倒な遠回りを強いられている。さてここで問題だけどね、ならばユーヴィーの前に大神が光臨しないのはどうしてだと思う?」
「…………それ、は」
「《真なる異端》じゃないからさ。《真なる異端》なら絶対に裁かれる、ユーヴィーは裁かれていない、つまりユーヴィーは《真なる異端》ではない。簡単な話だろう」
「なら俺は───」
「一つ、教えてやるよユヴォーシュ。世の《信業遣い》たち、《顕業者》たち、《奇術師》たちに《真龍》───元を辿ればぜぇんぶ同じ力なんだけどな、これって」
───神から授かって覚醒するんじゃない。覚醒してから、神が追認するんだ。
ケルヌンノスの台詞が、空っぽになった俺の頭の中をこだまする。
俺が《枯界》でバスティと出会って初めて《信業》を授けられたように、神聖騎士たちも小神から授かっているものだとばかり思いこんでいた。だって、
「なら何で、神聖騎士にならない俺みたいな《信業遣い》が他に居ないんだ……! 《信業遣い》が独りでに目醒めるってんなら、他にもいたっていいはずだろ!」
「おいおい、忘れちゃダメだよユーヴィー。キミみたいな異端じゃなきゃ小神に逆らおうなんて発想はないんだよ。魂にまで刻まれた神のしるしがあるんだから」
「仮に神聖騎士にならないとしても、そんな奴は信庁総出で始末されて終わりさ。誰もお前ほどの力は持ち合わせちゃいないんだよ」
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