331話 終点廃塔その2
荒れ放題の景色の中で一点だけ目を惹く建造物が残されている。
それは細い尖塔。他にめぼしい建物もないなか、それだけが無事なようすで聳え立っているから上空からだと見落としようがない。おそらく地上からであっても、どこからでも見えるくらいには背の高い塔であろう。
目を惹くのは塔そのものだけではない。かつて妖精の里だった地は随所に破壊の痕跡が窺えるが、とりわけその塔の周りはひどく破壊されたらしい。その徹底ぶりが塔の健在を際立たせている。
まるで、『ここへ来い』と誘っているかのようだ。
まさか真実《角妖》の里が滅んでいるとは思わなかったから、どうすべきかと思案する。この光景を作り上げたのがケルヌンノスかどうかはまた調査の必要があるが、真偽どちらであっても彼がこの廃墟を訪れるか、留まっているかといえばその可能性は低いだろう。こんな場所で暮らすのなんて、野宿と大差はなさそうだ。
十年以上前に滅んだ都市を歩き回って、当時何があったのか分析できるほどの学識はない。《信業》や魔術ならばそういうのを探れるかもしれないが、そんなことをできる人物は一行にはいない。カストラスでも引っ張って来るべきだったか……。
だが、そんな後悔はすぐにかき消えることとなった。
───音もなく、一天俄にかき暮れる。
ニーオリジェラが神殺しを為すがため、《魔界》と《人界》を繋いで混沌の渦に叩き込んだ時の前兆と同じだ。
あの時と同じならば、頭上に見えるはずだ、迫りくる別の世界が───と思って仰ぎ見ても、それらしき兆候は現れない。これはどうやら夜にしただけで、『二界を衝突させるのに夜にする必要がある』のであって『夜にしたら二界が衝突する』わけではないらしい。
ならばその意味するところは、挑発だ。
二界衝突をしないのならば、こんな風に昼夜を狂わせる意味なんてない。そんな目立つことをすれば己の存在が一帯にいる誰もに伝わるのは馬鹿でも分かるし、だからこそそれが目的となる。
あの時、聖都での異常現象の中心点に向かった俺は、そこで初めてケルヌンノスと遭遇した。今また同じ現象を起こせるのは彼を除いて他にいないだろうに、わざわざ俺たちが《倢羽》に乗って現れたと見るや夜を到来させたのだ。
中心へ来い、ここへ来い、俺の元へ来いと言っている。
───廃墟の中にただ一つ残存する、あの塔へと。
「舐めやがって」
いいだろう、行ってやる。今度は逃がさないと覚悟を決めて、俺は《倢羽》から飛び降りた。
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