329話 血晶女王その10
……待て。別に俺は、《妖圏》の王位問題を解決するためにここに来たわけじゃなかっただろ。もっと別の、俺なりの目的をもってここに来たんであって───
「そうだ、ケルヌンノス! あいつの行方を追わなきゃならないんだ、知ってるのはたぶん《地妖》だとゼオラドくらいで───」
「私も存じております」
「えっ?」
《華妖》ウィニウィクチアの言葉は不意打ちにも程があった。ここまで苦労しておいて、何でそんなあっさりと知っている人が出てくるんだ。もっと早く来てくれ!
呆然として彼女に視線を向けると、彼女は真剣な表情で、
「ウーリーシェン様から事情を伺い、私が伝えねばと馳せ参じました。どうか、この情報と引き換えにこの一件から手をお引き下さい」
「……引かないなら教えない、ってことか」
「はい」
力づくで聞き出すのは趣味じゃない。かといって取引も好かないが、ゼオラドを見つけて聞き出そうにも行方知れずだし、そもそも教えてくれそうにないのは先の接触で確認済みだ。他の手段はなさそうで、あとは俺の気分次第。
歯軋りしそうなくらい悩んでいると、ヒウィラが一歩前に出て声を張る。
「妖精王ウーリーシェン、貴方はいつから《華妖》と結託していたのですか?」
『む?』
「お、おい、ヒウィラ何を……」
急にはきはきと喋り出すから困惑しかない。しかし、そうはいっても彼女はお姫様をやっていた身。そういう交渉事やらには俺以上に適性がありそうだから、任せてみよう。
「これだけの空挺部隊を出して、《華妖》から次の妖精王候補を選出して、冠を奪いに行けば失敗した場合に《地妖》との関係は悪化すると貴方が分かっていないはずがない。それを厭わないのは綿密に計画を練って、絶対に獲れるという確信があったから。それなのに貴方は言いました」
───山嶺都市に何が起こったのか分からない、と。
「そんなはずはない。これだけの計画、とても私たちが山嶺都市を探し回っている間に立てられたはずがない。貴方は知っていたんでしょう。そしてその上で私たちには嘘をついた」
この場に姿のないウーリーシェンがどんな顔をしているか、俺たちには見えない。
ヒウィラが向けている疑義も正当性があるかどうかわからない。
けれど───だから何だというのだろう。《妖圏》のゴタゴタに関わるのにはもう疲れた。俺は彼ら妖属がどうなろうと極論知ったこっちゃないし、俺をいいように使おうとしてくるばかりの連中のために何かをしてやりたいという意欲は湧いてこない。妖精王ウーリーシェンへの疑いは、俺の心の最後の一押しとなった。
「……もういい、もういいよヒウィラ。もうたくさんだ」
「……しかし」
「お陰で分かった。俺はこいつらが嫌いだ」
そりゃあ俺たちは余所者だから仕方ないと言えばそれまでだが、それにしたっていいように使おうとしてくる奴なんか好きになれることはないだろうさ。もっと言えば、上から目線で全部思い通りになっているんだみたいに気取られるのは最高に腹が立つ。
「さっさと行こう。あちらさんもそれがお望みだろ」
『そう、それで良い。ああそれと、余からも一つ言わせてもらうなら』
彼方、超々々巨大《石従》を、ひときわ激しい霹靂が打ち据える。
妖精王ウーリーシェンは俺たちと念話を繋ぎながら、ずっとアレを相手にしていたのだぞ、と。その気になればいつでも俺たちに天から裁きを下せるのだぞ、と。そう言いたげに感じさせる激甚の一撃。
『余もその方は嫌いだ』
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