324話 血晶女王その5

 ───妖精王を殺すなよ。


 別れ際のグーンルンツの言葉を想起する。何でも妖精王が死んでその王冠を継ぐ者がいなければ、妖精王の地位は誰か別の有力な妖属に移ることとなるらしい。誰が選ばれるかは妖神ケテスィセルのみぞ知ることだが、ゼオラドの乱心で大幅に力を減じた《地妖》に再び宿るのは望み薄、だそうだ。そうなれば《地妖》は妖精王を戴く妖属の地位から転落し、今までのような栄華は望むべくもなくなる。


 必ず妖精王ゼオラドは自らの手で討たねばならないのだ、と告げた彼に対して───俺はこう返した。


 ───善処はするけど、保証はできない。


 妖精王との戦いは避けられないし、聖究騎士や魔王に相当する実力者相手に加減は出来ない。目的も不透明で、いざというときは断じねばならない可能性がある以上、あの場で決めるのは不可能だ。


 グーンルンツは俺を刺し殺したそうな眼で睨んではいたが、実力で勝てないのは理解していたのか大人しく引き下がった。俺たちの突入に合わせて反抗勢力も動くかどうかは、彼次第だ。


 期待はしないでおこう。互いに利用できるならする程度の関係性と割り切るべきだ。


 俺は《光背》で《石従》の振り下ろした槌を受け止めると、大きく奴らの頭上に跳び出る。


「ヒウィラ、一掃してやれッ!」


 俺の叫びよりも先に《信業》が瞬き、詰め寄っていた《石従》たちが衝撃で薙ぎ払われてバラバラになる。爬行宮の警備担当だったらしい連中が大挙して押し寄せても、所詮は初撃で爬行宮ごと砕け散った程度。ゼオラドの操作があっても、数が多いだけの木偶の坊だ。


 


 穴から垣間見える青が翳る。《真龍》よりも巨きな影が空を覆ったのだ。爬行宮が巨大《石従》なら、あれは超々々巨大《石従》ってところか。ざっくばらんな造形の巨人の、その握った拳だけで爬行宮と大差ない。


 それが振り下ろされる。巻き起こった風だけで山嶺都市の大穴が壊滅的な被害を受けているがそれどころじゃない。


 俺は渾身の《光背》を、




 ───世界が揺れた。


 間違いなく今までで最大質量。物理的衝撃だけで《信業》による防御を越えてダメージを与えてきたのか、それともそこまでゼオラドの《信業》なのか? いいやそれどころじゃない体勢を崩すな二撃目が降ってくる何が何でも止めないと全員死ぬぞ───


「よくも───!」


 髑髏城を半壊させたのと同等の爆発は、しかし巨人の腕を逸らしたに過ぎない。頭上を通り過ぎていく腕に、《光背》にはすでに罅が入っている。


 冗談じゃない、こんなもの何発も受けていられるか! ロジェスやマイゼス級じゃねえか!

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