323話 血晶女王その4
俺は《光背》を広げる。爬行宮と言うらしい巨大《石従》を包み込んで、内部の構造を詳らかに───
見つけた。
玉座の間と思しき中心部にいる《地妖》の女性───これがゼオラド・メーコピィ。
そして下部に安置されている結晶体。これは《光背》越しでも存在感に圧倒される。血の結晶、まずはこれを壊す。
「ヒウィラ、あっちだ! ブチかませ!」
「ええはい───行きますよッ!」
閃光。俺が指さした先、爬行宮の左部に《信業》の爆炎が直撃してあらゆる五感が飽和する。
轟音。巨大《石従》が三分の一を喪失して傾いだ。支脚が足りず地に伏す爬行宮の地響きが《光背》に伝わる。これで機動力は奪ったし、血の結晶も───
《光背》の感知網に高速移動体の反応があった。
俺は咄嗟に《光背》を解除して貼り直す。渾身の防御壁が爬行宮オディーフィヤの駆動腕に削られてガリガリと音を立てる。防ぎ切った───と思って気を緩めそうになった瞬間、
バスティが肩を叩いた。
《光背》を保った俺を再度の拳撃。タイミングをズラして襲い掛かってきたのだ───そのまま捻り潰そうとしてくる。ヒウィラの小爆撃で駆動腕は力の向きをズラされ、互い違いになって不快な金属擦過音を立てる。俺はもう一方の腕からも逃れると、着地して攻撃者に声をかける。
「邪魔してるぜ、妖精王」
「───何だ貴様は」
《地妖》としてはおそらく平均的であろう身長の女性。髪は短く切り揃えられていて、そこだけ見れば男性のようにも見える───女性であっても妖精王、剛くあれという慣習によるものか。燃え盛る炎のような立ち姿。
地の底で揺らめく、理解し得ない瞋恚の焔───
激昂したゼオラド・メーコピィが、あの短時間で玉座の間から俺たちに相対する位置にまで出てきていた。先の時間差攻撃の精密操作は俺を視認できるようになったからか。
まあ、引き籠られたり逃げに徹されたりするよりはよっぽどいい。俺は彼女に訊きたいことがあったから。
「《角妖》の男、ケルヌンノスって奴を知らないか?」
「何を、何を言っている。これだけ狼藉を働いて、教えてもらえると思っているのか?」
「さあ。ただ、教えてくれたら俺も一つ教えてやるよ。《人界》から来てんだ、あんたの知りたいことを知ってそうだとは思わないか?」
「──────」
極めて不愉快そうなのは保ったまま、ゼオラドの表情の裏で思案が走る。彼女が求め狂った一人息子ジーブルは《人界》へと去り、そこで行方が分からなくなっている。彼女としてもその情報は喉から手が出るほど欲しいもののはず。交渉の目はあるだろう───
どうだ?
「───ぅるさい、うるさい、誑かそうとしおって! 貴様の言うことなぞ信じられるか、余は知りたいことがあれば自分で確かめるわ! 貴様は殺す、惨たらしく殺す、よくも余の血晶を砕きよったな!」
───駄目か!
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