317話 闇黒彷徨その8

 猛反対にあった。


 俺をよく知らないであろうグーンルンツが反対するのはまだ納得できる。素性も分からない異邦人に、狂したとしても自分たちの妖精王の行く末を委ねるワケにはいかない、そもそも単身で妖精王のもとへ到達しようというのが正気の沙汰ではない。


 そう主張するのは当然で、どちらかと言えば彼が正しいだろう。だが俺もゼオラドに会わないで済ませることはできないから、最終的には説得を諦めるのも視野に入れる。行ってしまえば彼は別に説得する必要はないのだから。


 けれどもヒウィラはそうはいかない。無茶をするのは好かないという彼女の言い分は完全な感情論で、だからこそ説得が難しいけれど放置してどうにかなる話じゃない。むしろ機嫌は悪化するだろう。


「───なあ、だからさ、そろそろこっち向いてくれよ」


「嫌です」


 完全にへそを曲げてしまった彼女は、そこらへんの石に腰かけて、頑なに俺と顔を合わせようとしないまでになってしまった。さっきからずっとこの調子で、昼飯にしようと言っても無反応。やっと返事をしてくれるようになった頃には、もう日が暮れる心配をする時間になってしまっていた。


 このままだんまりを決め込んで、俺が山嶺都市に向かえないようにするつもりかもしれない。俺は全面降伏を決意して、こうして何度目かのアタックに挑戦した。


 ───ちなみにバスティは俺がヒウィラの周りでおろおろしている間にグーンルンツからあらかた情報を聞き出し終えて、今や完全に暇を持て余している。グーンルンツも俺という要注意人物から目を離せないと留まって、俺がヒウィラを説得するまで事態は動きそうもない。


 俺は何をしているんだろうと疑問に思ってはいけない。俺自身が納得して行動するために、今はヒウィラとの話し合いに全霊を集中するんだ。


「俺が悪」「かったとか思ってないですよね」


 …………。


 ダメだ、まだまだ滅茶苦茶に怒ってる。


 今のヒウィラが《信業》を解き放ったとして、おそらく髑髏城グンスタリオの時のような爆発にはならないだろう。ではどうなるか、俺の予想では一帯がドロドロに溶けると思う。一瞬ですべてを終わらせるのとは違う、瞋恚。


 おっかねぇ……。


 結局彼女は、自らの仕事だと任じているはずの食事の準備もまるっと放棄して、日が暮れてもそこから動こうとしなかった。俺は一食抜くくらいは問題にならないし、バスティは義体だ。グーンルンツは自前でどうにかするだろう。


 俺はもう何を言われてもいい覚悟を決めて、真っ暗ななかで石に腰かけたままのヒウィラの方へと再び歩み寄る。……ふと、こんなことが以前にもあったなと思い出した。


 あの時は《魔界》インスラで、今は《妖圏》ケテスィセル。じゃあ次は《龍界》クラインクィンクスかな? ははっ、まさかそこまで赴くことはないだろう。

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